まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜

31本当の事を

「お疲れ様。お言葉に甘えて先にはじめているわよ」

 広いダイニングテーブルの一角に座っているエマは、ナプキンで口を拭きながら私達を見て意味深に目を細めた。

「すみません。これでも急いだのですが」

 私を両腕に抱きながらジェイドは満足げに笑みを浮かべている。

 そこにいる大人たちは、すべて分かっているような含みのある笑みを浮かべていた。
(恥ずかしい……)

 幼いエイダンくんはスプーンを片手に握りしめたまま、一人頬を染めている私を見て不思議そうな顔をした。

「ローラ、足いたいの?」
 清らかな新緑の目が私に向けられている。

「あのね……これは」

 一体、幼い子にこの状況をどう説明すればいいのだろう。
 嘘を吐きたくはないけれど、浴室で愛されて足が震えてしまい歩けないとはさすがに言えない。

 ここに来る前、ジェイドに回復魔法を頼んでみた。このひと月の間、何度か彼に回復魔法をかけてもらった事があったから。しかし、今日は大きな魔法を使ったため出来ないと断られてしまって、こうして抱きかかえられる事になったのだ。

 答えに困ってしまい俯くと、ジェイドが代わりに話してくれた。

「エイダン、ローラは俺のお姫様だから移動する時はこうして抱くんだよ」

 チュッと音を立て、ジェイドは私の額にキスを落とす。
 エイダンくんは持っていたスプーンを皿に置き、トン、と椅子を降りて私達の傍に来るとジェイドの顔をジッと見つめた。

「ふうん。じゃあどうしておふろに行くときはだっこしなかったの?」
「……」
「ねぇ、どうして?」

 エイダンくんの核心を突く言葉にジェイドは目を丸くする。

「ま、まぁエイダン、この短時間に随分とおしゃべりが上手になったわね」

 機転を利かせたエマが声を掛けエイダンくんの気を引いてくれた。
 褒められたエイダンくんは嬉しそうに笑ってエマの下に行く。

「ぼくおしゃべり上手?」
「ええ、とっても!」

 二人が楽しそうに話している間に、ジェイドと私は席に着いた。

「さぁジェイドさん、ローラも」

 先にレイズ侯爵邸へと来ていたマイアが、グラスにワインを注いでくれた。

「マイア……」
「話はさっきエマ様から聞きました。本当に無事でよかったわ」

 私達が現れるまでの間、エマはアーソイル公爵邸で起きた事の次第を皆に話してくれていた。

「私はこの混乱を期にアーソイル公爵から離れようと思っているの。今なら私がいなくなっても問題ないでしょう。先ほどフェリクス様からもこの家で働いてもらえないかと言っていただいて、私はここで働く事に決めたの」
「レイズ侯爵邸で?」
「ええ」

 マイアの話に続けて、フェリクスお兄様が話しをされた。

「実は今、メアリは新しい命を宿しています。ちょうど働いてくれる人を探していたんです。ローラさんの乳母であったマイアさんなら安心できるとお願いしました」

 フェリクスお兄様はメアリお姉様の側にいき肩を抱く。

「まぁ、メアリ様……お腹に赤ちゃんが?」

 頷いたメアリお姉様は、お腹に手を当て頬を染め微笑んだ。

「そうだったのか、兄さん姉さん、おめでとう!」

 ジェイドが祝福を述べると、二人は揃って「ありがとう」と笑う。

「ぼく、おにいちゃんになるの」
 ニッコリと笑ったエイダンくんは「そうだ」と言ってエマの下を離れ、部屋の隅に寝ている二匹の子犬の前にしゃがみ、ジェイドを見上げながら口輪を指さした。

「ジェイド、これごはんたべられないよ」

 口輪を外してと頼まれたジェイドは「分かった」と言い、二匹の前に膝をついた。

 二匹はまるで言葉が分かるように大人しく見上げ待っている。

 ジェイドは二匹の口輪に手を翳した。

「父上、母上、今から口輪を外します。いいですか、我々に吠えたり噛みついたりしないで下さい」

 呪文を唱え二匹の口輪を消す。

 ――聞き間違いだろうか? 彼は、チーチとハーハを……。
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