まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
家に転移した途端、ポフッとベッドの上に下ろされた。
(部屋って寝室だったのね……)
「兄さん、かなり酔っていたみたいだ」
嬉しそうに笑ったジェイドは、上着を脱ぎ捨て私の上に覆いかぶさる。
額と額をくっつけるようにして私を見つめる彼からは、いつもの爽やかな香りとは違う甘いワインの香りがする。
ジェイドも酔っているのだろう。いつもよりたくさん飲んでいたもの。
「お兄様、優しい方ね」
「うん、すごく優しい人だよ」
ジェイドはそのまま顔を寄せ一度だけキスをした。
大好きな優しい新緑の瞳は私を見つめる。
「ローラ、お願いがあるんだけど」
「お願い?」
「君の力で願って欲しい」
――ジェイドが願い事を言うなんて珍しい。
もしかして今日は彼の誕生日だから?
贈り物を用意できなかったと伝えた時、彼は欲しいものがあるからと言っていた。
彼の欲しい物……。
それは私の加護の力で叶えられるものなのだろうか?
でも……。
「何でも言って」
彼の望みならどんな願いでも叶えてあげたいと思い、力強く告げると新緑の目は嬉しそうに細められた。
「俺の願いは……」
だが、言い始めてすぐジェイドは声を詰まらせてしまい、笑みを浮かべていた顔にも影が差した。
「ジェイド、何でもいいのよ? あなたが望むならどんなものにも願うわ」
魔法を使えるようになったジェイドには、出来ない事はほとんどない。
――そんな彼が言い難いほどの願いとは……?
しばらくするとジェイドは決心したように口を開いた。
「ローラ……もし、このまま俺達に子供が出来なかったら……」
その声は、いつもより低く暗くて……。
(もしかしたら……)
私の中にあった不安が募ってくる。
「……出来なかったら?」
返した声は不安から上擦ってしまう。
――さっきまで、心は幸せで一杯だったのに。
もしかしたら――このまま私に子供が出来ないのであれば、別れて欲しいと願われるのかもしれない。それとも外に女性を持ち子供を……。
不吉な事ばかり考えてしまい、胸がぎゅっと締め付けられ目に涙が溢れてきた。
(別れたくないけれど、それが彼の願いなら……)
急に泣き出した私を見て、ジェイドは目を見開いた。
「ローラ? どうした? なぜ泣くんだ⁉︎ 俺まだ何も言ってない」
「私にだって言おうとしている事ぐらい分かるもの。子供が出来なかったら、別れて欲しいと言うんでしょう?」
どんなに願っても叶えられない願いはたくさんある。
私はそれを知っているから。
「は? 言わないよ⁈ どうしてそんな風に考えて……」
ジェイドは思い切り眉間に皺を寄せている。
……これは。
「違うの?」
「違うよ」
ほんの少し呆れたような声で返事をしたジェイドは、優しい新緑の目で私を見つめながら何だか不自然に口角を上げた。
「実は、魔力が戻った時感じたことがあって。それをギルに調べてもらっていたんだ」
「ギルに?」
私の頬に手を添えて、ジェイドは大きく頷いた。
「このまま子供が出来なければ、俺は君より長く生きる事になる」
愛する人と同じ時を生きたいと願ったエマとギルの息子たちは、自身の子に長い命をもたらす魔力を引渡す方法を考え、その魔法を己にかけた。
かけた魔法は解かれる事なく、レイズ侯爵家とライン辺境伯家の新緑の瞳を持つ者達は、子を持ち新緑色の瞳に魔力を授ける事で愛する者と同じ長さの時を生きてきた。
「魔力は自身の子を授かった時から少しずつ分け与えられていくらしい。俺は、レイズとラインの両方の血を受け継いでいるから、ギルの見解では、このまま子供が出来なければ体の中の魔力により、彼らと変わりないほどの長い時を生きるそうだ」
「そんな……」
瞬きをする私の目から涙がこぼれ落ちた。
「ローラ、俺達はまだ若い。だが、子供を授かれるかは分からない」
「……はい」
子供を授かれなければ、ジェイドは魔力により長い時を生きる。
彼はエマ達と同じ時を生きる、私は一人先に老いて……。考えるだけで胸が痛くなる。
「その時は私……」
『あなたに見守られながら、この世を去るのね』できるだけ明るく言おうとしたけれど、唇が震えてしまい言葉に出来なかった。
「ローラ」
ジェイドは大好きな優しい声で私の名前を告げると、とめどなく流れ落ちる涙を指で拭って、柔らかな微笑みを浮かべた。
「俺はこれからも、君と同じ時を生きていきたい」
これからも同じ時を生きる……それは。
「私に……子供が出来なかったら、同じ時を生きる為に、他の人と子供を作るという事なの?」
「え?」
彼が私と同じ時を生きるには、彼は魔力を渡す子供を持たなければならない。それは、彼が他の女性と……。
「そんなの嫌……私」
――無理。
彼が他の人を腕に抱いている所を考えるだけで胸が張り裂けそうになる。
「そんな事はしないよ。ローラ、俺は生涯君以外愛するつもりはない。もちろん外に子供を作るつもりもない……だから」
「ローラ」
「はい」
「俺と同じ時を生きて欲しい。いつの日か訪れる最後の時まで、離れる事なく俺を愛し続けると、そう願って欲しい」
(ジェイドと同じ時を……)
自分と同じ時を私に生きて欲しい……それが彼の願いだった。
――なんて嬉しい願いだろう。彼と永遠の時を過ごせ、私は永遠に彼に愛されるのだ。
けれど、彼が言葉を渋った理由も分かった。
――その願いは、私が自身に加護の力を使う事になる。それも、命への願い。
加護の力で叶えられるのかは分からない。
――けれど。
新緑の瞳は不安げに揺れている。それを払拭するように私は出来る限りの笑顔を見せ、魔力の封印を解いた夜のように彼の頬にそっと手を添えた。
美しい新緑の瞳を見つめながら、私は心から願った。
――お願い――
「ジェイドと同じ時の流れを生きていける力を私にください」
そう告げた瞬間、私の体はふわりと輝いた。
胸に温かい不思議な感覚が広がる。
――願いは叶えられたのだろうか、それが分かるのはこれからずっと先の話。
もう一度彼の目を見つめ返した私は、彼の求める言葉を告げる。
それは、願いではない、誓いの言葉。
二人だけで結婚式をした、教会で告げた言葉。
「私は最後の時まで決して離れる事なく、ずっとあなたを愛し続けます」
私はあなたに出会い、人の優しさを知った。
胸の高鳴りを、恋を知り、愛し愛される事を知ったの。
それはこれまでも、変わる事なくずっと……。
あなたに出会ったあの日から、私は今もまだあなたを愛してる。
「ありがとうローラ、俺もずっと愛してる」
ジェイドは嬉しそうに微笑み告げた。
「ジェイド」
ジェイドは頬に添えていた私の手をおもむろに取ると、手のひらにチュッと音を立て口づけた。
「じゃあ、もう一つ、いい?」
「……え?」
驚いてしまい思わず声が裏返る。
(……もう一つ?)
「願いの数は決まっているのか?」
ジェイドは子供のような真っ直ぐな眼差しを向けてくる。
「決まっては……」
確かに決まりはない。
それに、彼の願いが叶えられたかどうかわかるのはずっと後の事で。
「頼む、もう一つだけ」
切実に懇願してくる彼にダメだという理由もなく、私は願いを受ける事に決めた。
「いいわジェイド。今日はあなたの誕生日だもの……あなたが望むだけ、ただし私に叶えられる願いにしてね?」
「よかった。今から言う願いは君にしか叶えられないから」
ジェイドは嬉しそうに瞳を輝かせ、もう一つの願いを口にした。
「それって」
「君にしか叶えられない願いだろう?」
――その願いを口にした私は。
それから一晩中、ジェイドの熱い愛を受け入れることとなった。
(部屋って寝室だったのね……)
「兄さん、かなり酔っていたみたいだ」
嬉しそうに笑ったジェイドは、上着を脱ぎ捨て私の上に覆いかぶさる。
額と額をくっつけるようにして私を見つめる彼からは、いつもの爽やかな香りとは違う甘いワインの香りがする。
ジェイドも酔っているのだろう。いつもよりたくさん飲んでいたもの。
「お兄様、優しい方ね」
「うん、すごく優しい人だよ」
ジェイドはそのまま顔を寄せ一度だけキスをした。
大好きな優しい新緑の瞳は私を見つめる。
「ローラ、お願いがあるんだけど」
「お願い?」
「君の力で願って欲しい」
――ジェイドが願い事を言うなんて珍しい。
もしかして今日は彼の誕生日だから?
贈り物を用意できなかったと伝えた時、彼は欲しいものがあるからと言っていた。
彼の欲しい物……。
それは私の加護の力で叶えられるものなのだろうか?
でも……。
「何でも言って」
彼の望みならどんな願いでも叶えてあげたいと思い、力強く告げると新緑の目は嬉しそうに細められた。
「俺の願いは……」
だが、言い始めてすぐジェイドは声を詰まらせてしまい、笑みを浮かべていた顔にも影が差した。
「ジェイド、何でもいいのよ? あなたが望むならどんなものにも願うわ」
魔法を使えるようになったジェイドには、出来ない事はほとんどない。
――そんな彼が言い難いほどの願いとは……?
しばらくするとジェイドは決心したように口を開いた。
「ローラ……もし、このまま俺達に子供が出来なかったら……」
その声は、いつもより低く暗くて……。
(もしかしたら……)
私の中にあった不安が募ってくる。
「……出来なかったら?」
返した声は不安から上擦ってしまう。
――さっきまで、心は幸せで一杯だったのに。
もしかしたら――このまま私に子供が出来ないのであれば、別れて欲しいと願われるのかもしれない。それとも外に女性を持ち子供を……。
不吉な事ばかり考えてしまい、胸がぎゅっと締め付けられ目に涙が溢れてきた。
(別れたくないけれど、それが彼の願いなら……)
急に泣き出した私を見て、ジェイドは目を見開いた。
「ローラ? どうした? なぜ泣くんだ⁉︎ 俺まだ何も言ってない」
「私にだって言おうとしている事ぐらい分かるもの。子供が出来なかったら、別れて欲しいと言うんでしょう?」
どんなに願っても叶えられない願いはたくさんある。
私はそれを知っているから。
「は? 言わないよ⁈ どうしてそんな風に考えて……」
ジェイドは思い切り眉間に皺を寄せている。
……これは。
「違うの?」
「違うよ」
ほんの少し呆れたような声で返事をしたジェイドは、優しい新緑の目で私を見つめながら何だか不自然に口角を上げた。
「実は、魔力が戻った時感じたことがあって。それをギルに調べてもらっていたんだ」
「ギルに?」
私の頬に手を添えて、ジェイドは大きく頷いた。
「このまま子供が出来なければ、俺は君より長く生きる事になる」
愛する人と同じ時を生きたいと願ったエマとギルの息子たちは、自身の子に長い命をもたらす魔力を引渡す方法を考え、その魔法を己にかけた。
かけた魔法は解かれる事なく、レイズ侯爵家とライン辺境伯家の新緑の瞳を持つ者達は、子を持ち新緑色の瞳に魔力を授ける事で愛する者と同じ長さの時を生きてきた。
「魔力は自身の子を授かった時から少しずつ分け与えられていくらしい。俺は、レイズとラインの両方の血を受け継いでいるから、ギルの見解では、このまま子供が出来なければ体の中の魔力により、彼らと変わりないほどの長い時を生きるそうだ」
「そんな……」
瞬きをする私の目から涙がこぼれ落ちた。
「ローラ、俺達はまだ若い。だが、子供を授かれるかは分からない」
「……はい」
子供を授かれなければ、ジェイドは魔力により長い時を生きる。
彼はエマ達と同じ時を生きる、私は一人先に老いて……。考えるだけで胸が痛くなる。
「その時は私……」
『あなたに見守られながら、この世を去るのね』できるだけ明るく言おうとしたけれど、唇が震えてしまい言葉に出来なかった。
「ローラ」
ジェイドは大好きな優しい声で私の名前を告げると、とめどなく流れ落ちる涙を指で拭って、柔らかな微笑みを浮かべた。
「俺はこれからも、君と同じ時を生きていきたい」
これからも同じ時を生きる……それは。
「私に……子供が出来なかったら、同じ時を生きる為に、他の人と子供を作るという事なの?」
「え?」
彼が私と同じ時を生きるには、彼は魔力を渡す子供を持たなければならない。それは、彼が他の女性と……。
「そんなの嫌……私」
――無理。
彼が他の人を腕に抱いている所を考えるだけで胸が張り裂けそうになる。
「そんな事はしないよ。ローラ、俺は生涯君以外愛するつもりはない。もちろん外に子供を作るつもりもない……だから」
「ローラ」
「はい」
「俺と同じ時を生きて欲しい。いつの日か訪れる最後の時まで、離れる事なく俺を愛し続けると、そう願って欲しい」
(ジェイドと同じ時を……)
自分と同じ時を私に生きて欲しい……それが彼の願いだった。
――なんて嬉しい願いだろう。彼と永遠の時を過ごせ、私は永遠に彼に愛されるのだ。
けれど、彼が言葉を渋った理由も分かった。
――その願いは、私が自身に加護の力を使う事になる。それも、命への願い。
加護の力で叶えられるのかは分からない。
――けれど。
新緑の瞳は不安げに揺れている。それを払拭するように私は出来る限りの笑顔を見せ、魔力の封印を解いた夜のように彼の頬にそっと手を添えた。
美しい新緑の瞳を見つめながら、私は心から願った。
――お願い――
「ジェイドと同じ時の流れを生きていける力を私にください」
そう告げた瞬間、私の体はふわりと輝いた。
胸に温かい不思議な感覚が広がる。
――願いは叶えられたのだろうか、それが分かるのはこれからずっと先の話。
もう一度彼の目を見つめ返した私は、彼の求める言葉を告げる。
それは、願いではない、誓いの言葉。
二人だけで結婚式をした、教会で告げた言葉。
「私は最後の時まで決して離れる事なく、ずっとあなたを愛し続けます」
私はあなたに出会い、人の優しさを知った。
胸の高鳴りを、恋を知り、愛し愛される事を知ったの。
それはこれまでも、変わる事なくずっと……。
あなたに出会ったあの日から、私は今もまだあなたを愛してる。
「ありがとうローラ、俺もずっと愛してる」
ジェイドは嬉しそうに微笑み告げた。
「ジェイド」
ジェイドは頬に添えていた私の手をおもむろに取ると、手のひらにチュッと音を立て口づけた。
「じゃあ、もう一つ、いい?」
「……え?」
驚いてしまい思わず声が裏返る。
(……もう一つ?)
「願いの数は決まっているのか?」
ジェイドは子供のような真っ直ぐな眼差しを向けてくる。
「決まっては……」
確かに決まりはない。
それに、彼の願いが叶えられたかどうかわかるのはずっと後の事で。
「頼む、もう一つだけ」
切実に懇願してくる彼にダメだという理由もなく、私は願いを受ける事に決めた。
「いいわジェイド。今日はあなたの誕生日だもの……あなたが望むだけ、ただし私に叶えられる願いにしてね?」
「よかった。今から言う願いは君にしか叶えられないから」
ジェイドは嬉しそうに瞳を輝かせ、もう一つの願いを口にした。
「それって」
「君にしか叶えられない願いだろう?」
――その願いを口にした私は。
それから一晩中、ジェイドの熱い愛を受け入れることとなった。