まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
翌朝。
サムス公爵邸に行き事情を話し、しばらく休むと伝えた俺は、その足でレイズ侯爵邸に向かった。
何事もなかった様な顔で出迎えた両親に、俺は形式的な挨拶を交わした。
昨日の事で、俺は両親に対し失望していた。
これまで魔力を持たないにも関わらず、育ててもらった恩を感じ両親の言葉に従ってきた。
だが、俺やローラに当然の如く嘘をつき、その上彼女を嘲り追い出した彼等にその感情はなくなった。
ローラの無事を確認し連れて帰ってきたその時に、俺はレイズの名を捨てるつもりだ。
そうなれば、クリスタも俺と結婚をするとは言わないだろう。
だが、今はまだ俺のその考えを悟らせてはならない。
とにかくローラの下へ行くまでは、これまで通りの従順な俺でいなくては。
彼女の元へ一緒に行くと話すクリスタが、俺の考えを知れば何をするか分からない。
水の加護持ちは時として非情な事を考え実行する。
力を持つ彼らは、それが身内であっても自分の害と認めれば容赦なく制裁を下す。
警戒をしておかなくては……。
◇◇◇
すでに来ていたアクアトス公爵家の大きな馬車の後ろについて、ローラを送った御者の家へと向かった。
御者の家は町はずれにあり、俺たちがそこへ到着したのは昼を少し過ぎた頃。
同じ様な家が軒を並べる一番端に、御者の家はあった。
その前を通る道は街中のようには整備されておらず、馬や人の動きに土埃が舞っていた。
クリスタは、馬車を降りる事なく窓からその家を見下ろし眉を顰める。
「汚いところ。叔母様、よくこんな所見つけられたわね」
俺が御者の家の扉を叩こうとしたそこに、御者が幌馬車を引いて帰って来た。
御者は家の前に止まっている豪華な馬車に目を丸くする。
「何です?」
「突然すまない。俺はレイズ侯爵家の者だ。あなたは昨日、夫人に頼まれて女性を修道院まで乗せて行ったと聞いているが……」
そう言いながら、御者の乗ってきた幌馬車に目を向けた俺は、声を詰まらせた。
(……まさか、こんなものにローラを乗せたのか?)
その幌馬車は、人を乗せるものではなかった。
驚いている俺に、御者は何度も頷いた。
「ええ、乗せて行きました。大人しいお嬢さんでね、こんな古い幌馬車に文句も言わず何時間も乗って……」
「彼女は、無事に修道院へ着いたのか?」
一番気になっていた事を聞くと御者は一瞬目を見開いた。
「無事に修道院への道まで送りました」
「道? 道とはなんだ?」
おかしな返事に、片眉を上げ御者を見る。
「ちゃ、ちゃんと送りましたよ。そんな恐ろしい顔を向けないでくれませんか?」
俺の顔を見た御者は震えていた。
「あ、ああ、済まない。つい心配で」
(よかった……)
俺は、彼女を連れて行った修道院の場所が書かれた紙を渡して欲しいと御者に話した。
すると、御者はなぜか困った顔になる。
「消えたんです」
「消えた? 失くした、の間違いじゃないのか?」
首を横に振った御者は、一枚の古い紙を俺に渡した。
「それがレイズ侯爵様から渡された物です」
「これ?」
それは何も書かれていない、ただの古い紙きれ。
どういう事だと紙を見入る俺に、御者は紙に書いてあった場所でローラを下ろし別れた。その後で紙を見たところ、全て消えていたのだと話した。
「あら、だったらあなたが直接案内しなさい。行ってきたばかりだもの、道ぐらい覚えているでしょう? ほら、早く!」
クリスタは公爵家の馬車の中から、御者に指を指しながら命令する。
年老いた御者は目を白黒させた。
「へ? 今し方帰ってきたばかりなんですぜ? 覚えてはいるが、今から行っても着いた先は真っ暗で何も見えねぇ」
とてもじゃないが今からは行く事は出来ない、と御者は言った。修道院のある山は安全な所だったが、そこに行く道中は夜になれば物騒になり、何が起こるか分からないという。
(また一日延びるのか……)
それを聞いたクリスタは、落胆する俺を横目にしながら「仕方がないわね」と笑みを浮かべた。
「じゃあ明日の早朝に出発することにしましょう。馬車は公爵家から用意するわ」
肩までの髪をサッとはらうと「二頭立てでいいかしら?」と笑って見せた。
御者は首を横に振る。
「そんな立派な馬車ではあの道は通ることはできねぇ。うちの幌馬車がギリギリ通れる幅しかねえんだ。大きいもんしかねぇんなら、この馬車に乗ってもらうしかねぇよ」
そう言われ幌馬車に目を向けたクリスタは、ハンカチで口元をおさえた。
「……分かったわ、公爵邸で一番小さな馬車にします。では、明日早朝にここへ来るわ」
御者の返事を聞く事なくクリスタは公爵邸へと馬車を走らせた。
俺は改めて御者と明日の約束を交わし、家に帰った。
サムス公爵邸に行き事情を話し、しばらく休むと伝えた俺は、その足でレイズ侯爵邸に向かった。
何事もなかった様な顔で出迎えた両親に、俺は形式的な挨拶を交わした。
昨日の事で、俺は両親に対し失望していた。
これまで魔力を持たないにも関わらず、育ててもらった恩を感じ両親の言葉に従ってきた。
だが、俺やローラに当然の如く嘘をつき、その上彼女を嘲り追い出した彼等にその感情はなくなった。
ローラの無事を確認し連れて帰ってきたその時に、俺はレイズの名を捨てるつもりだ。
そうなれば、クリスタも俺と結婚をするとは言わないだろう。
だが、今はまだ俺のその考えを悟らせてはならない。
とにかくローラの下へ行くまでは、これまで通りの従順な俺でいなくては。
彼女の元へ一緒に行くと話すクリスタが、俺の考えを知れば何をするか分からない。
水の加護持ちは時として非情な事を考え実行する。
力を持つ彼らは、それが身内であっても自分の害と認めれば容赦なく制裁を下す。
警戒をしておかなくては……。
◇◇◇
すでに来ていたアクアトス公爵家の大きな馬車の後ろについて、ローラを送った御者の家へと向かった。
御者の家は町はずれにあり、俺たちがそこへ到着したのは昼を少し過ぎた頃。
同じ様な家が軒を並べる一番端に、御者の家はあった。
その前を通る道は街中のようには整備されておらず、馬や人の動きに土埃が舞っていた。
クリスタは、馬車を降りる事なく窓からその家を見下ろし眉を顰める。
「汚いところ。叔母様、よくこんな所見つけられたわね」
俺が御者の家の扉を叩こうとしたそこに、御者が幌馬車を引いて帰って来た。
御者は家の前に止まっている豪華な馬車に目を丸くする。
「何です?」
「突然すまない。俺はレイズ侯爵家の者だ。あなたは昨日、夫人に頼まれて女性を修道院まで乗せて行ったと聞いているが……」
そう言いながら、御者の乗ってきた幌馬車に目を向けた俺は、声を詰まらせた。
(……まさか、こんなものにローラを乗せたのか?)
その幌馬車は、人を乗せるものではなかった。
驚いている俺に、御者は何度も頷いた。
「ええ、乗せて行きました。大人しいお嬢さんでね、こんな古い幌馬車に文句も言わず何時間も乗って……」
「彼女は、無事に修道院へ着いたのか?」
一番気になっていた事を聞くと御者は一瞬目を見開いた。
「無事に修道院への道まで送りました」
「道? 道とはなんだ?」
おかしな返事に、片眉を上げ御者を見る。
「ちゃ、ちゃんと送りましたよ。そんな恐ろしい顔を向けないでくれませんか?」
俺の顔を見た御者は震えていた。
「あ、ああ、済まない。つい心配で」
(よかった……)
俺は、彼女を連れて行った修道院の場所が書かれた紙を渡して欲しいと御者に話した。
すると、御者はなぜか困った顔になる。
「消えたんです」
「消えた? 失くした、の間違いじゃないのか?」
首を横に振った御者は、一枚の古い紙を俺に渡した。
「それがレイズ侯爵様から渡された物です」
「これ?」
それは何も書かれていない、ただの古い紙きれ。
どういう事だと紙を見入る俺に、御者は紙に書いてあった場所でローラを下ろし別れた。その後で紙を見たところ、全て消えていたのだと話した。
「あら、だったらあなたが直接案内しなさい。行ってきたばかりだもの、道ぐらい覚えているでしょう? ほら、早く!」
クリスタは公爵家の馬車の中から、御者に指を指しながら命令する。
年老いた御者は目を白黒させた。
「へ? 今し方帰ってきたばかりなんですぜ? 覚えてはいるが、今から行っても着いた先は真っ暗で何も見えねぇ」
とてもじゃないが今からは行く事は出来ない、と御者は言った。修道院のある山は安全な所だったが、そこに行く道中は夜になれば物騒になり、何が起こるか分からないという。
(また一日延びるのか……)
それを聞いたクリスタは、落胆する俺を横目にしながら「仕方がないわね」と笑みを浮かべた。
「じゃあ明日の早朝に出発することにしましょう。馬車は公爵家から用意するわ」
肩までの髪をサッとはらうと「二頭立てでいいかしら?」と笑って見せた。
御者は首を横に振る。
「そんな立派な馬車ではあの道は通ることはできねぇ。うちの幌馬車がギリギリ通れる幅しかねえんだ。大きいもんしかねぇんなら、この馬車に乗ってもらうしかねぇよ」
そう言われ幌馬車に目を向けたクリスタは、ハンカチで口元をおさえた。
「……分かったわ、公爵邸で一番小さな馬車にします。では、明日早朝にここへ来るわ」
御者の返事を聞く事なくクリスタは公爵邸へと馬車を走らせた。
俺は改めて御者と明日の約束を交わし、家に帰った。