まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
7 話ができたら
浴室を出ると、エマはギルと一緒に私をこれから暮らす部屋へと案内してくれた。
木の温もりを感じる穏やかな家具で整えられた部屋。
一つある小さな窓には、紺地に銀色の糸が星の形に刺繍された夜空のようなカーテンが下がっている。
窓を頭にして置かれたベッドには、草木染をしたような色合いのカバーが掛けてあった。
ベッドの近くにあるテーブルに、エマは持っていたトレーを置く。
そのトレーの上には飲み物やちょっとした食べ物が準備されていた。
「お腹はすいていない?」
「はい」
私の返事を聞いたエマは、ティーポットを手に取りカップにお茶を注いだ。
「では、飲み物だけ置いておくわね。温かいうちに飲んで、よく眠れるから」
「ありがとうございます」
そう言うとエマは目を伏せた。
「さっきはごめんなさいね。私余計な事をしてしまったわ」
ジェイドはあなたを探していると言い、エマは水晶玉に彼の姿を映し出してくれた。
しかしそこに映ったのは、ジェイドと彼に抱きつき笑みを浮かべるクリスタ様の姿。
「エマが謝るような事は何もありません。私の方こそごめんなさい」
私が動揺してしまった為に、彼を見せてくれたエマに余計な心配をかけてしまった。
たまたま自分の期待していた形と異なっただけなのに。
エマの新緑の瞳がせつなげに歪められる。
「いいえ、私が悪いわ。ローラ、さっき見た事を忘れてと言っても無理でしょうけれど、あまり考えずにゆっくり休んで」
「はい、おやすみなさい。エマ、ギル」
「おやすみなさい、ローラ」
「ワンッ」
エマとギルが出ていくと、パタンと扉は閉められた。
テーブルにはさっきエマが置いてくれた飲み物が湯気を立て、とてもよい香りを漂わせている。
カップを取り両手で包み込むように握ると、じんわりと手のひらに温かさが伝わった。
(エマに心配をさせてしまった)
ベッドの端に腰を下ろしゆっくりとお茶を飲んだ。
フワリとお茶からオレンジの香りがして、ジェイドに出会った日の事が思い出された。
アーソイル公爵邸の裏庭で、オレンジの実を採っていたあの日に彼と出会った。
それから彼が会いに来てくれるようになって……。
(ダメ、また彼の事を考えてしまった)
忘れなければと、一度頭を振って、お茶を飲んだ。
飲み干したカップをテーブルに置くと、そのままベッドに横になった。
一人で眠るには少し広いベッド。
清潔なシーツからは安眠の効果をもたらすラベンダーの香りがする。
(エマはとても優しいのね……ジェイドみたい)
エマの気遣いがとても嬉しかった。
あまり考えずにゆっくり休んでと言われているけれど、一人の夜には、やっぱりどうしても考えてしまう。
「ジェイド……」
昨夜までは手を伸ばせば触る事ができた彼。
けれど今、彼の隣にはあの人がいる。
昨夜私に触れた手は、あの人に触れているのだろう。
偽りとなった愛を伝え重ねられた唇は、真実の愛を口にしながら重なっているのだろうか。
……いや。
こんな風に考えてしまうなんて……なんて私は卑しいの。
布団をかぶり身を縮めギュッと目を閉じる。
――もう私は、彼の妻ではない。
自ら離縁を決め、さよならも言わず何もかも置いて出てきた。
これまでの感謝の言葉も告げないまま。
何もかもなかった事だったかのように、二人で選んだ屋敷のカーテンも外して捨てた。
本当に何もかも。
たくさんの贈り物も。
結婚指輪も。
お守りだとつけてくれたネックレスも。
――自分から捨てておいて。
――これでよかったのだから。
間違いはない。加護のない私には彼を幸せにできない。
加護を持つあの人だったら、彼を幸せにしてあげられる。
……幸せに。
……ジェイド……。
いろいろと考えて、眠れない夜を過ごすのだろうと思っていたが、エマのお茶のおかげか私はスッと眠りについた。
木の温もりを感じる穏やかな家具で整えられた部屋。
一つある小さな窓には、紺地に銀色の糸が星の形に刺繍された夜空のようなカーテンが下がっている。
窓を頭にして置かれたベッドには、草木染をしたような色合いのカバーが掛けてあった。
ベッドの近くにあるテーブルに、エマは持っていたトレーを置く。
そのトレーの上には飲み物やちょっとした食べ物が準備されていた。
「お腹はすいていない?」
「はい」
私の返事を聞いたエマは、ティーポットを手に取りカップにお茶を注いだ。
「では、飲み物だけ置いておくわね。温かいうちに飲んで、よく眠れるから」
「ありがとうございます」
そう言うとエマは目を伏せた。
「さっきはごめんなさいね。私余計な事をしてしまったわ」
ジェイドはあなたを探していると言い、エマは水晶玉に彼の姿を映し出してくれた。
しかしそこに映ったのは、ジェイドと彼に抱きつき笑みを浮かべるクリスタ様の姿。
「エマが謝るような事は何もありません。私の方こそごめんなさい」
私が動揺してしまった為に、彼を見せてくれたエマに余計な心配をかけてしまった。
たまたま自分の期待していた形と異なっただけなのに。
エマの新緑の瞳がせつなげに歪められる。
「いいえ、私が悪いわ。ローラ、さっき見た事を忘れてと言っても無理でしょうけれど、あまり考えずにゆっくり休んで」
「はい、おやすみなさい。エマ、ギル」
「おやすみなさい、ローラ」
「ワンッ」
エマとギルが出ていくと、パタンと扉は閉められた。
テーブルにはさっきエマが置いてくれた飲み物が湯気を立て、とてもよい香りを漂わせている。
カップを取り両手で包み込むように握ると、じんわりと手のひらに温かさが伝わった。
(エマに心配をさせてしまった)
ベッドの端に腰を下ろしゆっくりとお茶を飲んだ。
フワリとお茶からオレンジの香りがして、ジェイドに出会った日の事が思い出された。
アーソイル公爵邸の裏庭で、オレンジの実を採っていたあの日に彼と出会った。
それから彼が会いに来てくれるようになって……。
(ダメ、また彼の事を考えてしまった)
忘れなければと、一度頭を振って、お茶を飲んだ。
飲み干したカップをテーブルに置くと、そのままベッドに横になった。
一人で眠るには少し広いベッド。
清潔なシーツからは安眠の効果をもたらすラベンダーの香りがする。
(エマはとても優しいのね……ジェイドみたい)
エマの気遣いがとても嬉しかった。
あまり考えずにゆっくり休んでと言われているけれど、一人の夜には、やっぱりどうしても考えてしまう。
「ジェイド……」
昨夜までは手を伸ばせば触る事ができた彼。
けれど今、彼の隣にはあの人がいる。
昨夜私に触れた手は、あの人に触れているのだろう。
偽りとなった愛を伝え重ねられた唇は、真実の愛を口にしながら重なっているのだろうか。
……いや。
こんな風に考えてしまうなんて……なんて私は卑しいの。
布団をかぶり身を縮めギュッと目を閉じる。
――もう私は、彼の妻ではない。
自ら離縁を決め、さよならも言わず何もかも置いて出てきた。
これまでの感謝の言葉も告げないまま。
何もかもなかった事だったかのように、二人で選んだ屋敷のカーテンも外して捨てた。
本当に何もかも。
たくさんの贈り物も。
結婚指輪も。
お守りだとつけてくれたネックレスも。
――自分から捨てておいて。
――これでよかったのだから。
間違いはない。加護のない私には彼を幸せにできない。
加護を持つあの人だったら、彼を幸せにしてあげられる。
……幸せに。
……ジェイド……。
いろいろと考えて、眠れない夜を過ごすのだろうと思っていたが、エマのお茶のおかげか私はスッと眠りについた。