まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
夢を見る事もなく寝ていた私は、ギルの声で目を覚ました。
カーテンの隙間から明るい太陽が顔を見せている。
(もうすっかり朝になっている!)
慌てて身支度を済ませ、キッチンと続きになっている居間へ向かうと、ギルが尻尾を振りながら出迎えてくれた。
すでにキッチンに置いてあるダイニングテーブルの上には朝食が並んでいる。
私に気づいたエマはおはようと言いながら、ニッコリと笑った。
「どう、ローラよく眠れた?」
「はい、朝までぐっすり寝ていました」
あんなに落ち込んでいたのにぐっすりと寝てしまっていた事が何だか恥ずかしくて、熱を持った頬を押さえた。
「ふふ、よかった。じゃあ、食べましょう!」
テーブルにエマと向かい合わせに座り、朝食をいただいた。
ギルはエマの横にある椅子にちょこんと座り、お皿に乗せてあるハムを器用に舌ですくい取りながら食べている。
私は木のお皿に入ったオレンジ色のスープを口にした。
「どう? 美味しいかしら?」
「はい、とても美味しいです。これはカボチャですか?」
オレンジ色のトロっとしたスープは甘く優しい味がする。
「正解。久しぶりに作ったけれど中々上手く出来たわ。実はね、私あまり料理はしないの」
「どうしてですか?」
「一人分を作るのって面倒でしょう? いつもは、あまり美味しくはないけれど、魔法でパッと出しちゃうのよ。でもこれからはローラと一緒だもの、張り切って作るわ! 私下手じゃないでしょう?」
エマはちょっと不安そうに首を傾げた。
隣に座るギルも同じように首を傾げている。
その仕種に、私は思わず笑ってしまった。
「はい」
よかったわ、とエマは笑みを浮かべる。
食事が終わり、支度を手伝えなかった私は、後片付けをさせてもらおうと考えていたのだが、言う前にエマが魔法を使い食器を片付けてしまった。
「あ!」
「どうしたの?」
急に声を出した私に、何かあったのかとエマが尋ねる。
「私、エマにお願いがあります」
「え? お願い?」
これからここで暮らすのだから自分にも何か手伝いをさせて欲しいと頼んだ。
エマは魔法で何でもできてしまうけれど、私にも出来ることがあるはず。洗濯でも掃除でも、料理も完璧とは言えないけれど一通りできるのだから。
――それに、動いていなければ私はよくない事ばかりを考えてしまうから。
エマは少し考えた後、私に畑の手入れをして欲しいと言った。
昨夜一人で暮らしていた時に作っていた野菜が美味しかったと話していたからという。
「ぜひやらせてください」
服が汚れない様にと渡してくれた黒いエプロンをつけ、案内され『畑』に着いた。
その場所は家からほんの少し歩いた所、ただの草原に見えるそこが畑なのだとエマは言った。
「あまり端には行かないでね、危ないから」
畑の先は峡谷になっていて、落ちたら大変なのだと言う。
耳をすませば、下の方から水音が聞こえる。
「気を付けます」
端の方には近づかないと決め、頷きながら返事をした。
その場所で、ギルは楽しそうに走り回っている。
端の方へ走るギルを見てハラハラとしている私の横で、エマは目を細めていた。
「この場所は、夫が手入れをしていたの。でも、ずいぶん前に出来なくなっちゃった……」
「出来なく……」
それは旦那様になにかあったから?
昨夜の話の中で出てきたエマと一緒になった魔法使い。その方も彼女と同じように長い時を生きると言っていたけれど、今この家にはいないみたい。
理由を尋ねてみてもいいだろうかと目を向けた私に、エマはウインクをした。
「私、魔女でしょう? 魔法でパパッとすればいいけど、畑は人の手が入った方がいいって夫が言っていたのを思い出して出来ずにいたの。もちろん、やろうとしたこともあるのよ? でもね、こういう手入れと言うものは苦手、忘れちゃうと言うか……要するに私には出来ないのよ」
恥ずかしそうに話すエマが可愛く見えて、思わず笑ってしまった。
けれどそうやって、上手く話を逸らされた気がした。どうやら旦那様の話は聞いて欲しくはないのだ、そう思った。
「大丈夫です。旦那様が手入れをされていた頃の様には出来ないと思いますが、きっとすてきな畑にします」
「そう?」
「はい」
「じゃあよろしくね。昼食はとびきり美味しい物を作っておくから! ギル、ローラを手伝って、それから何かあったら守るのよ」
「ワンッ、ワンッ!」
私はギルと一緒に畑を耕す事になった。
はじめる前に、地面に手を乗せ土に祈りを込める。
「美味しい野菜がたくさん作れる畑になりますように」
その様子を見ているギルは、不思議そうに首を傾げた。
「これはね、土にお願いしているの。私に加護の力はないけれど、こうすると少しだけいい事があるのよ」
「ワンッ」
元気よく返事をしてくれたギルは尻尾をパタパタと振る。
「ふふ、ギルは私の話している事が分かるみたい」
そう言うと、なぜかギルは「キューン」と悲しそうに鼻で鳴き耳を伏せた。
「どうかしたの?」
尋ねてみたが、ギルはブンブンと頭を振り、さっと離れていき畑の土を掘り始めた。
よく分からないけれど何でもなかったみたい。
気を取り直し、私も一緒に畑づくりを始めた。
雑草を抜いて、借りた鍬で少しずつ土を掘り起こす。
「思ったより早く終わりそう……」
雑草はスルスルと抜け、硬くなっている様に見えた土は簡単に掘り起こせた。
「でも、もう少し土に栄養を与えてあげないといけないわね」
「ワンッ!」
泥まみれになったギルは尻尾を激しく振りながら返事をした。
カーテンの隙間から明るい太陽が顔を見せている。
(もうすっかり朝になっている!)
慌てて身支度を済ませ、キッチンと続きになっている居間へ向かうと、ギルが尻尾を振りながら出迎えてくれた。
すでにキッチンに置いてあるダイニングテーブルの上には朝食が並んでいる。
私に気づいたエマはおはようと言いながら、ニッコリと笑った。
「どう、ローラよく眠れた?」
「はい、朝までぐっすり寝ていました」
あんなに落ち込んでいたのにぐっすりと寝てしまっていた事が何だか恥ずかしくて、熱を持った頬を押さえた。
「ふふ、よかった。じゃあ、食べましょう!」
テーブルにエマと向かい合わせに座り、朝食をいただいた。
ギルはエマの横にある椅子にちょこんと座り、お皿に乗せてあるハムを器用に舌ですくい取りながら食べている。
私は木のお皿に入ったオレンジ色のスープを口にした。
「どう? 美味しいかしら?」
「はい、とても美味しいです。これはカボチャですか?」
オレンジ色のトロっとしたスープは甘く優しい味がする。
「正解。久しぶりに作ったけれど中々上手く出来たわ。実はね、私あまり料理はしないの」
「どうしてですか?」
「一人分を作るのって面倒でしょう? いつもは、あまり美味しくはないけれど、魔法でパッと出しちゃうのよ。でもこれからはローラと一緒だもの、張り切って作るわ! 私下手じゃないでしょう?」
エマはちょっと不安そうに首を傾げた。
隣に座るギルも同じように首を傾げている。
その仕種に、私は思わず笑ってしまった。
「はい」
よかったわ、とエマは笑みを浮かべる。
食事が終わり、支度を手伝えなかった私は、後片付けをさせてもらおうと考えていたのだが、言う前にエマが魔法を使い食器を片付けてしまった。
「あ!」
「どうしたの?」
急に声を出した私に、何かあったのかとエマが尋ねる。
「私、エマにお願いがあります」
「え? お願い?」
これからここで暮らすのだから自分にも何か手伝いをさせて欲しいと頼んだ。
エマは魔法で何でもできてしまうけれど、私にも出来ることがあるはず。洗濯でも掃除でも、料理も完璧とは言えないけれど一通りできるのだから。
――それに、動いていなければ私はよくない事ばかりを考えてしまうから。
エマは少し考えた後、私に畑の手入れをして欲しいと言った。
昨夜一人で暮らしていた時に作っていた野菜が美味しかったと話していたからという。
「ぜひやらせてください」
服が汚れない様にと渡してくれた黒いエプロンをつけ、案内され『畑』に着いた。
その場所は家からほんの少し歩いた所、ただの草原に見えるそこが畑なのだとエマは言った。
「あまり端には行かないでね、危ないから」
畑の先は峡谷になっていて、落ちたら大変なのだと言う。
耳をすませば、下の方から水音が聞こえる。
「気を付けます」
端の方には近づかないと決め、頷きながら返事をした。
その場所で、ギルは楽しそうに走り回っている。
端の方へ走るギルを見てハラハラとしている私の横で、エマは目を細めていた。
「この場所は、夫が手入れをしていたの。でも、ずいぶん前に出来なくなっちゃった……」
「出来なく……」
それは旦那様になにかあったから?
昨夜の話の中で出てきたエマと一緒になった魔法使い。その方も彼女と同じように長い時を生きると言っていたけれど、今この家にはいないみたい。
理由を尋ねてみてもいいだろうかと目を向けた私に、エマはウインクをした。
「私、魔女でしょう? 魔法でパパッとすればいいけど、畑は人の手が入った方がいいって夫が言っていたのを思い出して出来ずにいたの。もちろん、やろうとしたこともあるのよ? でもね、こういう手入れと言うものは苦手、忘れちゃうと言うか……要するに私には出来ないのよ」
恥ずかしそうに話すエマが可愛く見えて、思わず笑ってしまった。
けれどそうやって、上手く話を逸らされた気がした。どうやら旦那様の話は聞いて欲しくはないのだ、そう思った。
「大丈夫です。旦那様が手入れをされていた頃の様には出来ないと思いますが、きっとすてきな畑にします」
「そう?」
「はい」
「じゃあよろしくね。昼食はとびきり美味しい物を作っておくから! ギル、ローラを手伝って、それから何かあったら守るのよ」
「ワンッ、ワンッ!」
私はギルと一緒に畑を耕す事になった。
はじめる前に、地面に手を乗せ土に祈りを込める。
「美味しい野菜がたくさん作れる畑になりますように」
その様子を見ているギルは、不思議そうに首を傾げた。
「これはね、土にお願いしているの。私に加護の力はないけれど、こうすると少しだけいい事があるのよ」
「ワンッ」
元気よく返事をしてくれたギルは尻尾をパタパタと振る。
「ふふ、ギルは私の話している事が分かるみたい」
そう言うと、なぜかギルは「キューン」と悲しそうに鼻で鳴き耳を伏せた。
「どうかしたの?」
尋ねてみたが、ギルはブンブンと頭を振り、さっと離れていき畑の土を掘り始めた。
よく分からないけれど何でもなかったみたい。
気を取り直し、私も一緒に畑づくりを始めた。
雑草を抜いて、借りた鍬で少しずつ土を掘り起こす。
「思ったより早く終わりそう……」
雑草はスルスルと抜け、硬くなっている様に見えた土は簡単に掘り起こせた。
「でも、もう少し土に栄養を与えてあげないといけないわね」
「ワンッ!」
泥まみれになったギルは尻尾を激しく振りながら返事をした。