まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
「……ギル?」
「わん? なに? ローラ」

 私を見たギルは返事をして首を傾げた。

 やっぱり……さっきから聞こえている、優しい男の人の声はギル。
 ……ギルが、私達と同じ言葉を話している。

「ギル、あなた本当は話せたの?」

 エマは話せないように言っていたけれど、本当は話す事が出来たのだろうか? そう思い尋ねるとギルは「違う」と首を横に振った。

「さっき話せるようになったんだ」

 パタパタと嬉しそうに尻尾を振りながら「ローラ、君のおかげだ」と話した。

「私?」
「昨日、僕が話せるようにと願ってくれた」


 あの時? でも私には……。

「確かに願いを口にしたけれど、私にはそんな力はないわ」

 私は、加護の力も持っていない。
 けれどギルは「でも君だ」と言う。

「君にはこれまでの加護持ちとは違う力があると思う」
「違う力?」

 私に?

『力』があるというの?

 私は、自分の手のひらを見つめた。
 アーソイル公爵の持つ加護の力は財を成す力。石や土に手で触れて祈りを込め生み出すものだ。
 だが、これまで何度も試したけれど私には何一つ生み出せなかった。

「私には力はないわ」

 そう告げると、ギルはゆっくり首を横にした。

「僕には君の力だと感じる。これまで君の力は眠っていて、それが何かのきっかけで目覚めたんだと思うよ」

「眠っていたの?」
「わん」

 ギルは大きく頷いた。

「じゃあ、無事だったのも私の力なの?」

 私は今いる場所を見まわした。
 少し先には細い川が見える。その向こうにある岩壁を見上げるけれど、先はここからは見えないほど高い。
 あの高さから落ちたのなら、命を失ってもおかしくはなかったはず。けれど私やジェイド、ギルにはかすり傷一つ見られない。

 ギルが言う『加護の力』とは違う『力』が、どんなものか分からないけれど。

「これは違うよ」

 すぐに言葉を返したギルは、首を横に振り……そのまま全身を振ったため、私とジェイドは泥だらけになった。

「わ、ごめん。つい習性で」
 くうん、と鼻を鳴らしギルは耳を伏せる。
「いいの。すでに汚れていたもの」
「わん! そうだね!」

 ギルの姿はモフモフの犬。けれど今、彼の声は優しく素敵な大人の男性。その声で『わん』と言う。
 それがとてもおかしくて、私はつい笑ってしまった。
 それにつられるようにギルも楽しそうに尻尾を振った。

 薄明りの中、これまで茶色に見えていたギルの瞳が、エマやジェイドと同じ新緑色に輝いている。

 この色は、魔力持ちの色だとお義母様は言っていた。
 それに、さっき簡単な呪文なら使える……ギルはそう言っていなかった?

 ――まさかギルは……。
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