まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
――それは彼と過ごした最後の夜。
寝ている彼にそっと触れながら『ありがとう』とこれまでの感謝を伝え、『ごめんなさい』と幸せにしてもらうばかりで自分は何も出来なかったことを謝った。
それから、レイズ侯爵家が切望する魔力が、彼の体に現れるようにと願いをこめて『魔力が現われますように』と口にした。
その事を話すと、ギルは興奮したように尻尾をパタパタと激しく振り、耳をピンと立て目を輝かせた。
「わん! ローラ、やっぱり君だ! だからジェイドはここにいる」
だから彼がここにいる?
「ここにいるってどういう意味? それに、さっきも現れたってどういう事なの?」
私が峡谷へ落ちる寸前まで、ジェイドは使用人と共にクリスタ様の隣にいて、彼女の加護の力に守られていた。
「ジェイドは魔法を使ったんだ」
「魔法を? ジェイドは魔法を使えるの?」
ジェイドは魔力持ちの新緑の瞳を持っている。けれど曽祖父の代から魔力を失い、彼にも魔力はないのだとレイズ侯爵夫妻は言われた。
彼らから魔力が失われたのは、エマの封印によるものだったけれど……。
「昔、エマがレイズ侯爵にかけた封印の魔法は今も効果がある。そしてそれは永遠に解けるはずはなかった。けれど、ローラの願いがジェイドの封印を解いている」
「封印を?」
「彼の封印は僕と一緒で、さっき解けたんだと思う。彼自身は気づいていないかもしれないけれど、君を守りたい一心で魔法を使ったんだよ」
「え?」
彼が私を守る?
「ジェイドは、無意識に転移魔法を使っている。あの魔法は、体にかかる負担が大きいんだ。だから意識を失っているんだけど、耳につけている石が身代わりになってくれているから、彼は大丈夫。きっと、もうすぐ目覚めるよ」
ギルが話したように、彼の耳飾りの紅水晶は二つとも割れている。
『騎士は愛する人の瞳や髪色の石をお守りにつけるんだ』そう言って、彼は私の瞳と同じ淡い色の紅水晶をつけていた。
その石が彼を守ってくれた事はとても嬉しかった。
けれど……。
「ねぇ、ローラ」
「なに?」
上目遣いになったギルは、下ろした尻尾の先を小さく振っている。
「この前エマが言っていた事覚えてる? ほら、ジェイドの本心は違うんじゃないかっていう……」
それは三日前、修道院へ来た経緯を聞かれ、ジェイドには想う人がいて私と離縁を望んでいるとレイズ侯爵夫妻に聞いたのだと話したあの時。
エマは、それは侯爵夫妻の嘘かも知れないと真実は目で見なければ分からないと水晶玉に彼の姿を映し出してくれた。
「覚えているわ。でも、ギルも見たでしょう? 笑顔のクリスタ様と彼の抱き合っている姿を」
「そ、そうだけど」
「私ね、さっき彼の姿を見て嬉しいと思ってしまったの。あの水晶玉で見た事は幻で、エマが最初に言ってくれたように、私を迎えに来てくれたんだって。でも、すぐにクリスタ様が現れて……二人が並んだ姿は、とてもよく似合っていた」
それに、彼女ならジェイドの望みを叶えられる。
「でも、彼はここまで来たんだ。それに君を守った」
なぜかギルはジェイドを庇うように言う。
私は首を横に振った。
もう一度会えたことは嬉しかった。私を守るように抱きしめていてくれた事も……。
けれど、彼が何を思いここへ来たのか、守ってくれたのか、今の私には分からない。
彼はクリスタ様を愛していて、私とは別れたいと思っていると聞いた。
私にその事を告げないのは可哀想だと思っているからだと……。
可哀想と思う気持ちは愛とは違う。
そう思われてしまった私は、彼に愛されてはいないのだ。
それにもう一つ、エマとギルに話していない事がある。
「ギル、彼はね子供が欲しいの」
「わん?」
私の言葉に、ギルは困惑したように首を傾げる。
「でもね、それを私には望んでいなかった」
「望んでいないって、どういうこと?」
話そうと口を開いたその時、
「ローラ! ギル! 無事なの?!」
上の方から、エマの大きな声がした。
「わん!」
ギルは大きな声で鳴いて返事をする。
「ああ、よかった! 待って、今助けるから」
エマがそう話したと同時にバラバラと土が落ちてきた。
「わっ」
私はパッとジェイドに覆いかぶさり、彼の顔を土から守る。
声のする方を見上げていたギルは頭から泥をかぶり、真っ黒になった。
杖を片手にゆっくりと下りてきたエマが、私達を見て笑みを浮かべる。
「ローラ、よかった! 怪我はない?」
「はい、怪我はありません」
顔から泥をかぶった事が嫌だったのか、ギルは唸り声をあげた。
「うーーっ」
話せるようになっているギルは、やっぱり話そうとせず鳴き声を上げるだけ。
「あらギル、泥をかぶったぐらいで、そんなに怒らないで? あら? どうしてジェイドは寝ているの?」
アクアトスを追い払い、山を元に戻して来たのよと言いながら、エマは杖を振り私達を谷底から助け出してくれた。
寝ている彼にそっと触れながら『ありがとう』とこれまでの感謝を伝え、『ごめんなさい』と幸せにしてもらうばかりで自分は何も出来なかったことを謝った。
それから、レイズ侯爵家が切望する魔力が、彼の体に現れるようにと願いをこめて『魔力が現われますように』と口にした。
その事を話すと、ギルは興奮したように尻尾をパタパタと激しく振り、耳をピンと立て目を輝かせた。
「わん! ローラ、やっぱり君だ! だからジェイドはここにいる」
だから彼がここにいる?
「ここにいるってどういう意味? それに、さっきも現れたってどういう事なの?」
私が峡谷へ落ちる寸前まで、ジェイドは使用人と共にクリスタ様の隣にいて、彼女の加護の力に守られていた。
「ジェイドは魔法を使ったんだ」
「魔法を? ジェイドは魔法を使えるの?」
ジェイドは魔力持ちの新緑の瞳を持っている。けれど曽祖父の代から魔力を失い、彼にも魔力はないのだとレイズ侯爵夫妻は言われた。
彼らから魔力が失われたのは、エマの封印によるものだったけれど……。
「昔、エマがレイズ侯爵にかけた封印の魔法は今も効果がある。そしてそれは永遠に解けるはずはなかった。けれど、ローラの願いがジェイドの封印を解いている」
「封印を?」
「彼の封印は僕と一緒で、さっき解けたんだと思う。彼自身は気づいていないかもしれないけれど、君を守りたい一心で魔法を使ったんだよ」
「え?」
彼が私を守る?
「ジェイドは、無意識に転移魔法を使っている。あの魔法は、体にかかる負担が大きいんだ。だから意識を失っているんだけど、耳につけている石が身代わりになってくれているから、彼は大丈夫。きっと、もうすぐ目覚めるよ」
ギルが話したように、彼の耳飾りの紅水晶は二つとも割れている。
『騎士は愛する人の瞳や髪色の石をお守りにつけるんだ』そう言って、彼は私の瞳と同じ淡い色の紅水晶をつけていた。
その石が彼を守ってくれた事はとても嬉しかった。
けれど……。
「ねぇ、ローラ」
「なに?」
上目遣いになったギルは、下ろした尻尾の先を小さく振っている。
「この前エマが言っていた事覚えてる? ほら、ジェイドの本心は違うんじゃないかっていう……」
それは三日前、修道院へ来た経緯を聞かれ、ジェイドには想う人がいて私と離縁を望んでいるとレイズ侯爵夫妻に聞いたのだと話したあの時。
エマは、それは侯爵夫妻の嘘かも知れないと真実は目で見なければ分からないと水晶玉に彼の姿を映し出してくれた。
「覚えているわ。でも、ギルも見たでしょう? 笑顔のクリスタ様と彼の抱き合っている姿を」
「そ、そうだけど」
「私ね、さっき彼の姿を見て嬉しいと思ってしまったの。あの水晶玉で見た事は幻で、エマが最初に言ってくれたように、私を迎えに来てくれたんだって。でも、すぐにクリスタ様が現れて……二人が並んだ姿は、とてもよく似合っていた」
それに、彼女ならジェイドの望みを叶えられる。
「でも、彼はここまで来たんだ。それに君を守った」
なぜかギルはジェイドを庇うように言う。
私は首を横に振った。
もう一度会えたことは嬉しかった。私を守るように抱きしめていてくれた事も……。
けれど、彼が何を思いここへ来たのか、守ってくれたのか、今の私には分からない。
彼はクリスタ様を愛していて、私とは別れたいと思っていると聞いた。
私にその事を告げないのは可哀想だと思っているからだと……。
可哀想と思う気持ちは愛とは違う。
そう思われてしまった私は、彼に愛されてはいないのだ。
それにもう一つ、エマとギルに話していない事がある。
「ギル、彼はね子供が欲しいの」
「わん?」
私の言葉に、ギルは困惑したように首を傾げる。
「でもね、それを私には望んでいなかった」
「望んでいないって、どういうこと?」
話そうと口を開いたその時、
「ローラ! ギル! 無事なの?!」
上の方から、エマの大きな声がした。
「わん!」
ギルは大きな声で鳴いて返事をする。
「ああ、よかった! 待って、今助けるから」
エマがそう話したと同時にバラバラと土が落ちてきた。
「わっ」
私はパッとジェイドに覆いかぶさり、彼の顔を土から守る。
声のする方を見上げていたギルは頭から泥をかぶり、真っ黒になった。
杖を片手にゆっくりと下りてきたエマが、私達を見て笑みを浮かべる。
「ローラ、よかった! 怪我はない?」
「はい、怪我はありません」
顔から泥をかぶった事が嫌だったのか、ギルは唸り声をあげた。
「うーーっ」
話せるようになっているギルは、やっぱり話そうとせず鳴き声を上げるだけ。
「あらギル、泥をかぶったぐらいで、そんなに怒らないで? あら? どうしてジェイドは寝ているの?」
アクアトスを追い払い、山を元に戻して来たのよと言いながら、エマは杖を振り私達を谷底から助け出してくれた。