まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
10伝えられない気持ち
「ベッドに寝せてあげたいけれど泥だらけだもの、ここで我慢してね」
エマは礼拝堂のベンチに、まだ意識のないジェイドを魔法を使い運び入れて寝かせた。
「わん」
なぜかギルは言葉を発せず、これまでのように鳴くばかり。
話せると知ればエマは喜ぶはずなのに。何か理由があるのだろうか?
不思議に思いギルを見ていると、それまでジェイドに向いていたエマの視線が私に移った。
「ねぇローラ、彼と一度話をしてみない?」
「話を?」
さっき、ギルからも同じようなことを言われた。
「ローラは彼がここまで来た理由を知っているの?」
「クリスタ様は離縁書にサインを書かせるためだと言われました」
「それはあのアクアトスが言った事でしょう? 彼の口から聞いたの?」
「いえ……」
彼は何か言いたげにしていたけれど、クリスタ様に止められていて何も話してはいない。
「ジェイドはあなたが谷へ落ちた時、狂いそうなほどあなたの名前を叫んで消えたのよ」
「私の名前を?」
叫んで消えた?
「無意識に魔法を使ったのね。あなたへの想いが、解けるはずのない魔力の封印を解いたようなの。……ああ、そうだわ、彼にはライン辺境伯の血も流れているものね。だからかしら?」
何か他に、とエマが言いかけた時、ギルが体をブルブルと震わせた。辺りに泥が飛び散り、真剣に話をしていたエマは呆れたような顔になる。
「もう、ギルったら」
腰に手を当てて、ギルを見下ろすエマ。
そんな彼女を見上げながらギルは口を開いた。
「エマ、僕はローラの『力』だと思う」
「…………ん?」
ありえない事に、エマは目を見開く。
「今……」
エマを見上げているギルは、尻尾をふわりと一度だけ振ってみせる。
「ジェイドが魔法を使えたのは、ローラの力だと思う。僕もこうして話せるようになったしね」
「ギル?」
エマはこれ以上ないほど目を丸くしている。
その表情を見たギルは、満足そうに尻尾をパタパタと振った。
「そうだよ、僕の声忘れたの?」
「だ、だって」
「あ、犬だから声が少し違うのかな? 自分では分からないな、それに久しぶりに話したしね」
楽しそうなギル。
立ち尽くすエマの瞳には涙が溢れ出し、ぼろぼろと流れ落ちた。何かを話そうと口を開けるけれどまったく声にならない。
「やっぱりこうなると思った。エマは昔から僕の事になるとすぐ泣くから、それに泣き始めたらしばらくは止まらない。谷底で泣かれたら呪文が唱えられなくなって困ると思い話をしなかったんだ」
ギルは、エマの足にすり寄った。
「エマ、泣かないでよ。僕は犬だし、抱きしめてあげられない」
その言葉に、エマは首を横に振りしゃがみ込んでギルを抱きしめた。
ギルは目を閉じ、顔をエマに摺り寄せる。
「抱きしめてもらえるのは嬉しいけど、とりあえず僕を洗ってくれない? 気持ち悪くって仕方ないんだ」
泣きながら嬉しそうな顔をして、エマはコクコクと頷いた。
「ローラ、彼はもうすぐ目覚めると思うからそばにいてあげて」
そう言うとギルはエマのドレスの裾を噛み、礼拝堂を後にした。
エマは礼拝堂のベンチに、まだ意識のないジェイドを魔法を使い運び入れて寝かせた。
「わん」
なぜかギルは言葉を発せず、これまでのように鳴くばかり。
話せると知ればエマは喜ぶはずなのに。何か理由があるのだろうか?
不思議に思いギルを見ていると、それまでジェイドに向いていたエマの視線が私に移った。
「ねぇローラ、彼と一度話をしてみない?」
「話を?」
さっき、ギルからも同じようなことを言われた。
「ローラは彼がここまで来た理由を知っているの?」
「クリスタ様は離縁書にサインを書かせるためだと言われました」
「それはあのアクアトスが言った事でしょう? 彼の口から聞いたの?」
「いえ……」
彼は何か言いたげにしていたけれど、クリスタ様に止められていて何も話してはいない。
「ジェイドはあなたが谷へ落ちた時、狂いそうなほどあなたの名前を叫んで消えたのよ」
「私の名前を?」
叫んで消えた?
「無意識に魔法を使ったのね。あなたへの想いが、解けるはずのない魔力の封印を解いたようなの。……ああ、そうだわ、彼にはライン辺境伯の血も流れているものね。だからかしら?」
何か他に、とエマが言いかけた時、ギルが体をブルブルと震わせた。辺りに泥が飛び散り、真剣に話をしていたエマは呆れたような顔になる。
「もう、ギルったら」
腰に手を当てて、ギルを見下ろすエマ。
そんな彼女を見上げながらギルは口を開いた。
「エマ、僕はローラの『力』だと思う」
「…………ん?」
ありえない事に、エマは目を見開く。
「今……」
エマを見上げているギルは、尻尾をふわりと一度だけ振ってみせる。
「ジェイドが魔法を使えたのは、ローラの力だと思う。僕もこうして話せるようになったしね」
「ギル?」
エマはこれ以上ないほど目を丸くしている。
その表情を見たギルは、満足そうに尻尾をパタパタと振った。
「そうだよ、僕の声忘れたの?」
「だ、だって」
「あ、犬だから声が少し違うのかな? 自分では分からないな、それに久しぶりに話したしね」
楽しそうなギル。
立ち尽くすエマの瞳には涙が溢れ出し、ぼろぼろと流れ落ちた。何かを話そうと口を開けるけれどまったく声にならない。
「やっぱりこうなると思った。エマは昔から僕の事になるとすぐ泣くから、それに泣き始めたらしばらくは止まらない。谷底で泣かれたら呪文が唱えられなくなって困ると思い話をしなかったんだ」
ギルは、エマの足にすり寄った。
「エマ、泣かないでよ。僕は犬だし、抱きしめてあげられない」
その言葉に、エマは首を横に振りしゃがみ込んでギルを抱きしめた。
ギルは目を閉じ、顔をエマに摺り寄せる。
「抱きしめてもらえるのは嬉しいけど、とりあえず僕を洗ってくれない? 気持ち悪くって仕方ないんだ」
泣きながら嬉しそうな顔をして、エマはコクコクと頷いた。
「ローラ、彼はもうすぐ目覚めると思うからそばにいてあげて」
そう言うとギルはエマのドレスの裾を噛み、礼拝堂を後にした。