まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
お風呂場に入った途端、私を待っていたエマからギュッと抱きしめられた。
「ローラ、ありがとう! 本当にありがとう! ギルと話せるようになったのはあなたのおかげよ!」
「そんな、私かどうか分からないのに」
ギルは私の力のおかげだと言っているけれど、ハッキリとした事はまだ分かっていない。
「いいえ、あなたよ! ギルがそう言うんだから間違いはないわ」
エマは声を弾ませた。
それからニッコリと笑い「ねぇローラ、一緒にお風呂に入りましょう」と言う。
「え!」
なぜ、急にそんな話に?
私は誰かと一緒にお風呂へ入ったことはない。
緊張してしまうから一人で入りたいと言いたかったけれど、ニコニコと笑うエマに言うことはできなくて、私は観念して服を脱ぎタオルを纏い浴室へ入った。
「あれ……?」
入ってすぐに違和感を覚えた。浴室の様子が昨日までとは違う気がする。
――何が違うの?
ガラス瓶に入った蝋燭の明かりに照らされた浴室をよく見れば、浴槽の石が昨日より明るい色になっている。
後から入ってきたエマが「気がついた? 私、ローラに聞きたかったの。あなたこの石に何かしなかった?」そう言って浴槽の縁に触れた。
「何か?」
「ギルがね、ここにもあなたの力が働いていると言ったの」
ギルも私もさっき気がついたの、とエマは微笑む。
私の力……?
それはもしかしてあの日の……。
「あ、あの、はじめにここへ来た日に……」
私は、水晶玉を見た後に自分にも加護の力があればと思い、石に触れ祈ってしまったとエマに伝えた。
言ってすぐ、恥ずかしくなり俯いた。
それはクリスタ様に対抗するような行為だったから。
話を聞いたエマは「なるほどね」と呟く。
「あなたには、これまでのアーソイル公爵の持つ精霊の加護とはまた別の力があるのかもしれないわね」
エマは新緑の瞳の奥に光を宿し、興味深げに私を見つめる。
「けれど、この話は長くなりそうだからお風呂を出てからにしましょう。私達も話さなければならない事があるし」
話さなければならない事……それはギルの事だろうか?
ぼんやりと考えていると、エマが突然髪を洗ってあげると言いだした。
洗うのは得意なの、と明るく話すエマの言葉に、私は断ることはせずに素直に甘える事にした。
髪を洗ってもらうなんて幼い頃以来で、なんだかドキドキしてしまい胸の前で手を組んだ。
「ふふ、ローラったら。まあ、ギルと同じぐらい泥だらけだわ」
でもこれは私のせいね、と髪にお湯をかけながらエマは笑う。
「キレイな金の髪。少し手入れをしたらもっと綺麗になるわ」
「手入れ?」
思わず聞き返してしまった。私は毎日髪を洗っているし、櫛で梳いている。それ以上なにがあるのだろう?
「あら? もしかして髪に香油をつけたことはない? 人に髪を洗ってもらったことはないの? 結ってもらった事は?」
「自分で髪を洗える様になるまでは、乳母が髪を洗ってくれていました。結ってもらった事は数回あります。一度、結った髪に花をつけてもらいました」
乳母は、裏庭に咲いていたシロツメクサを器用に編んで、一つに結んだ私の髪につけてくれた。今も忘れられない、私の幸せな思い出だ。
「その方は今どうしていらっしゃるの?」
笑みを浮かべながら、エマは器用に石鹸を泡立てて、私の髪を洗いだした。
その手から伝わる優しさに、私はホッと息をつく。
「乳母は私が別荘に行った後に、公爵邸を辞めたと聞いています」
公爵邸で暮らしていた頃、私の名前を呼んでくれた、ただ一人の人。もう一度会いたいと願ったが、それは叶わなかった。
「そう、そうだったのね……」
声を落としたエマは、それ以上乳母の話を聞くことはなかった。
髪を洗ってもらい、体を洗い終え、二人でお湯に入った。
一息ついたエマは、一番知りたかったであろう話を聞いてきた。
「ねぇ、ローラ」
「はい」
「ジェイドと話は出来た?」
「いえ……できませんでした」
もう一度彼と話してみないかとエマに言われていたけれど、彼が目覚めてしまうと、なんと話せばいいのか分からなかった。
彼がここへ来てくれた事は、素直に嬉しかった。
だって、私は今も彼の事を想っているから。
けれど……。
彼に抱きすくめられた私の体は強張ってしまった。
私の心の中に、彼に対してのわだかまりがあったからだろう。
エマは私をジッと見つめる。
「もしかして、彼には話しにくい事があるの? それは私にも言えないかしら? ねぇローラ、よかったら話してくれない?」
浴室で聞くエマの声はとても優しくて、私は自然と気持ちを口に出した。
「実は……」
「ローラ、ありがとう! 本当にありがとう! ギルと話せるようになったのはあなたのおかげよ!」
「そんな、私かどうか分からないのに」
ギルは私の力のおかげだと言っているけれど、ハッキリとした事はまだ分かっていない。
「いいえ、あなたよ! ギルがそう言うんだから間違いはないわ」
エマは声を弾ませた。
それからニッコリと笑い「ねぇローラ、一緒にお風呂に入りましょう」と言う。
「え!」
なぜ、急にそんな話に?
私は誰かと一緒にお風呂へ入ったことはない。
緊張してしまうから一人で入りたいと言いたかったけれど、ニコニコと笑うエマに言うことはできなくて、私は観念して服を脱ぎタオルを纏い浴室へ入った。
「あれ……?」
入ってすぐに違和感を覚えた。浴室の様子が昨日までとは違う気がする。
――何が違うの?
ガラス瓶に入った蝋燭の明かりに照らされた浴室をよく見れば、浴槽の石が昨日より明るい色になっている。
後から入ってきたエマが「気がついた? 私、ローラに聞きたかったの。あなたこの石に何かしなかった?」そう言って浴槽の縁に触れた。
「何か?」
「ギルがね、ここにもあなたの力が働いていると言ったの」
ギルも私もさっき気がついたの、とエマは微笑む。
私の力……?
それはもしかしてあの日の……。
「あ、あの、はじめにここへ来た日に……」
私は、水晶玉を見た後に自分にも加護の力があればと思い、石に触れ祈ってしまったとエマに伝えた。
言ってすぐ、恥ずかしくなり俯いた。
それはクリスタ様に対抗するような行為だったから。
話を聞いたエマは「なるほどね」と呟く。
「あなたには、これまでのアーソイル公爵の持つ精霊の加護とはまた別の力があるのかもしれないわね」
エマは新緑の瞳の奥に光を宿し、興味深げに私を見つめる。
「けれど、この話は長くなりそうだからお風呂を出てからにしましょう。私達も話さなければならない事があるし」
話さなければならない事……それはギルの事だろうか?
ぼんやりと考えていると、エマが突然髪を洗ってあげると言いだした。
洗うのは得意なの、と明るく話すエマの言葉に、私は断ることはせずに素直に甘える事にした。
髪を洗ってもらうなんて幼い頃以来で、なんだかドキドキしてしまい胸の前で手を組んだ。
「ふふ、ローラったら。まあ、ギルと同じぐらい泥だらけだわ」
でもこれは私のせいね、と髪にお湯をかけながらエマは笑う。
「キレイな金の髪。少し手入れをしたらもっと綺麗になるわ」
「手入れ?」
思わず聞き返してしまった。私は毎日髪を洗っているし、櫛で梳いている。それ以上なにがあるのだろう?
「あら? もしかして髪に香油をつけたことはない? 人に髪を洗ってもらったことはないの? 結ってもらった事は?」
「自分で髪を洗える様になるまでは、乳母が髪を洗ってくれていました。結ってもらった事は数回あります。一度、結った髪に花をつけてもらいました」
乳母は、裏庭に咲いていたシロツメクサを器用に編んで、一つに結んだ私の髪につけてくれた。今も忘れられない、私の幸せな思い出だ。
「その方は今どうしていらっしゃるの?」
笑みを浮かべながら、エマは器用に石鹸を泡立てて、私の髪を洗いだした。
その手から伝わる優しさに、私はホッと息をつく。
「乳母は私が別荘に行った後に、公爵邸を辞めたと聞いています」
公爵邸で暮らしていた頃、私の名前を呼んでくれた、ただ一人の人。もう一度会いたいと願ったが、それは叶わなかった。
「そう、そうだったのね……」
声を落としたエマは、それ以上乳母の話を聞くことはなかった。
髪を洗ってもらい、体を洗い終え、二人でお湯に入った。
一息ついたエマは、一番知りたかったであろう話を聞いてきた。
「ねぇ、ローラ」
「はい」
「ジェイドと話は出来た?」
「いえ……できませんでした」
もう一度彼と話してみないかとエマに言われていたけれど、彼が目覚めてしまうと、なんと話せばいいのか分からなかった。
彼がここへ来てくれた事は、素直に嬉しかった。
だって、私は今も彼の事を想っているから。
けれど……。
彼に抱きすくめられた私の体は強張ってしまった。
私の心の中に、彼に対してのわだかまりがあったからだろう。
エマは私をジッと見つめる。
「もしかして、彼には話しにくい事があるの? それは私にも言えないかしら? ねぇローラ、よかったら話してくれない?」
浴室で聞くエマの声はとても優しくて、私は自然と気持ちを口に出した。
「実は……」