まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
尻尾を振りながら明るく話していたギルは、パタと振るのを止めて、真剣な眼差しを私へ向けた。
「ジェイドと話しをするんだね?」
「あの、それが」
話を聞いていたエマが、私を助けるようにキッチンから声をかける。
「ギル、さっきローラと決めたの。ジェイドとは私が話すわ」
エマは明るい声で言った。
「え、そうなの?」
首を傾げ、ギルは私を見つめる。
「それでいいの?」
「あ……あの」
「エマが彼と話をしてもいいの?」
深く胸に響くような声で話しながら、ギルはゆっくり尻尾を揺らす。
「彼がここに来た理由を、あの女性との関係を、ジェイドの気持ちを自分で確かめなくていいの?」
「あ……」
「僕はこれまで長い間、話をしたくても出来なかった。だからこそ言うけれど、大切な人との話を人に任せてはいけない。勇気を出して自分の口で聞いた方がいい。そうしなければきっと後悔をする。ローラは自分の気持ちを伝える事が怖い? でもね、言わなければ伝わらないよ?」
ギルの言う通り、私はこれまでも何も言わずにいた。
公爵邸にいた頃から、私は意見をする事がなかった。
自分の思いを言葉に出来なくなっていた。加護なしの私では、何を言っても何を望んでも叶えられる事はなかったから。だから今も、私が言ったところで何一つ変わることはないと思っていた。
「ローラ、君は話せる。自分の言葉で伝える事ができるんだ。今思う気持ちを、知りたい事を、胸の中にある不安を彼にぶつけてごらん。彼なら大丈夫だと僕は思う。エマの子孫だしね」
ギルはニッと笑って犬歯を覗かせる。
「ギル……」
これまで話したくても話せなかったと言ったギルの言葉は、私の胸に響いた。
「無理はしなくていいのよ? 私が聞いてあげると言ったのだから」
お茶をテーブルに並べながら、エマは優しく微笑む。
そんなエマに、パシッと尻尾で椅子を叩いたギルが口を尖らせる。
「エマ、優しくしたい気持ちは分かる。でもね、ローラのためを思うなら、君は代わりになるのではなく、見守る側に立つべきだ」
「まぁ、あなた話せるようになった途端に小言をいうのね。でも、どうしても言えないこともあるでしょう?」
少し唇を尖らせながら、けれど嬉しそうにエマは言う。
「そうやって、君はいつだって子供に甘いんだ」
「あら、甘やかしてもローラなら大丈夫よ」
二人は互いに意見を交わし合っている。
そんな二人のやり取りが羨ましく思えた。
私はよく分からないけれど、家族とはこういう風に言葉を交すものなのだろう。
自分の気持ちを言えば嫌われる、叱られる、捨てられるとは思うことはきっとない。
だってそこには、信頼があり、愛情があるから。
私にはそれが足りなかった。
ジェイドはいつだって笑って、優しい眼差しを私に向けてくれていたのに。
エマやギルのように、私は彼に話をしたことがあっただろうか?
いつも彼に任せてしまっていた気がする。
ジェイドはいつも優しく私の言葉を待っていてくれたのに。
レイズ侯爵夫妻に強い口調で離縁を言い渡された私は、それまでにあったいろいろな事を思い出し、怯えてしまった。
彼の優しい新緑の瞳に、彼らの冷たい瞳を重ねてしまっていた。
――私は――
エマは、彼に話す事が怖いのだと泣いた私の代わりに話してあげると言ってくれた。
けれど、それでいいの?
私はこのままエマに甘えてしまっていいの?
『女性は、自分を美しく着飾る事で自信と勇気を身につけるの』
エマはそう言って私を綺麗に着飾ってくれた。
勇気を持つように、この若草色のドレスを着せてくれたのかもしれない。
それなのに私は、何もせずにただエマに任せようとしている。これでは、どんなに美しい鎧を身に纏っていても、強い者を盾にして身を守るだけの愚者でしかない。
エマは何も言わずに、私を見つめ微笑んでいる。
フワフワと尻尾を振りながら、ギルが頷いている。
「エマ、私、自分で彼に聞いてみます。上手く言えるか分からないけれど、話します」
ギルとエマを見ながらそう口にした。
「いいの?」
幼い子供を心配するようにエマは言う。
「はい」
「分かったわ。でも、無理だったらいつでも言ってね?」
私もギルもあなたの側にいるから、とエマは微笑む。
「はい」
「ジェイドと話しをするんだね?」
「あの、それが」
話を聞いていたエマが、私を助けるようにキッチンから声をかける。
「ギル、さっきローラと決めたの。ジェイドとは私が話すわ」
エマは明るい声で言った。
「え、そうなの?」
首を傾げ、ギルは私を見つめる。
「それでいいの?」
「あ……あの」
「エマが彼と話をしてもいいの?」
深く胸に響くような声で話しながら、ギルはゆっくり尻尾を揺らす。
「彼がここに来た理由を、あの女性との関係を、ジェイドの気持ちを自分で確かめなくていいの?」
「あ……」
「僕はこれまで長い間、話をしたくても出来なかった。だからこそ言うけれど、大切な人との話を人に任せてはいけない。勇気を出して自分の口で聞いた方がいい。そうしなければきっと後悔をする。ローラは自分の気持ちを伝える事が怖い? でもね、言わなければ伝わらないよ?」
ギルの言う通り、私はこれまでも何も言わずにいた。
公爵邸にいた頃から、私は意見をする事がなかった。
自分の思いを言葉に出来なくなっていた。加護なしの私では、何を言っても何を望んでも叶えられる事はなかったから。だから今も、私が言ったところで何一つ変わることはないと思っていた。
「ローラ、君は話せる。自分の言葉で伝える事ができるんだ。今思う気持ちを、知りたい事を、胸の中にある不安を彼にぶつけてごらん。彼なら大丈夫だと僕は思う。エマの子孫だしね」
ギルはニッと笑って犬歯を覗かせる。
「ギル……」
これまで話したくても話せなかったと言ったギルの言葉は、私の胸に響いた。
「無理はしなくていいのよ? 私が聞いてあげると言ったのだから」
お茶をテーブルに並べながら、エマは優しく微笑む。
そんなエマに、パシッと尻尾で椅子を叩いたギルが口を尖らせる。
「エマ、優しくしたい気持ちは分かる。でもね、ローラのためを思うなら、君は代わりになるのではなく、見守る側に立つべきだ」
「まぁ、あなた話せるようになった途端に小言をいうのね。でも、どうしても言えないこともあるでしょう?」
少し唇を尖らせながら、けれど嬉しそうにエマは言う。
「そうやって、君はいつだって子供に甘いんだ」
「あら、甘やかしてもローラなら大丈夫よ」
二人は互いに意見を交わし合っている。
そんな二人のやり取りが羨ましく思えた。
私はよく分からないけれど、家族とはこういう風に言葉を交すものなのだろう。
自分の気持ちを言えば嫌われる、叱られる、捨てられるとは思うことはきっとない。
だってそこには、信頼があり、愛情があるから。
私にはそれが足りなかった。
ジェイドはいつだって笑って、優しい眼差しを私に向けてくれていたのに。
エマやギルのように、私は彼に話をしたことがあっただろうか?
いつも彼に任せてしまっていた気がする。
ジェイドはいつも優しく私の言葉を待っていてくれたのに。
レイズ侯爵夫妻に強い口調で離縁を言い渡された私は、それまでにあったいろいろな事を思い出し、怯えてしまった。
彼の優しい新緑の瞳に、彼らの冷たい瞳を重ねてしまっていた。
――私は――
エマは、彼に話す事が怖いのだと泣いた私の代わりに話してあげると言ってくれた。
けれど、それでいいの?
私はこのままエマに甘えてしまっていいの?
『女性は、自分を美しく着飾る事で自信と勇気を身につけるの』
エマはそう言って私を綺麗に着飾ってくれた。
勇気を持つように、この若草色のドレスを着せてくれたのかもしれない。
それなのに私は、何もせずにただエマに任せようとしている。これでは、どんなに美しい鎧を身に纏っていても、強い者を盾にして身を守るだけの愚者でしかない。
エマは何も言わずに、私を見つめ微笑んでいる。
フワフワと尻尾を振りながら、ギルが頷いている。
「エマ、私、自分で彼に聞いてみます。上手く言えるか分からないけれど、話します」
ギルとエマを見ながらそう口にした。
「いいの?」
幼い子供を心配するようにエマは言う。
「はい」
「分かったわ。でも、無理だったらいつでも言ってね?」
私もギルもあなたの側にいるから、とエマは微笑む。
「はい」