まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 しばらくすると、入浴を済ませたジェイドが部屋に入ってきた。
 エマが用意をしてくれたのか、上質な黒のシャツに同じく黒のトラウザーズを身につけている。
 彼にとてもよく似合ってる……。これまで見たことのない格好に、見惚れてしまう。

 ジェイドは部屋へ入るなり、なぜか私を見て立ち尽くした様に動かなくなった。

 ――どうしたのだろう?
 なんだか目を顰めている様に見える。
 ギルはジェイドの表情を見て目を細めた。

「ジェイド、そうやって見惚れてないで座りなよ」

 ――見惚れる?
 それは私に?

 ギルに促された彼は、私から目を逸らすことなく近くの椅子に腰を下ろす。

「揃ったわね」

 ジェイドが座ると、エマは空いている席に腰を下ろし、なぜか片手に杖を持ち、両手を広げた。

「いろいろと順番がおかしくなってしまったけれど、ここは」

 仰々しく話し始めたエマを、ひじ掛けに頭を乗せながら横目で見ながらギルはフッと笑う。

「エマ、魔女らしく話したい気持ちは分かるけど、そういうのはいいよ。それにこの場所の説明はさっき僕が話したから」
「え?」

 両手を広げたままエマは目を丸くする。
 ジェイドは真剣な顔でエマを見ていた。

「今、あなた方が住んでいるここは以前、修道院であったと聞きました」
「そ、そう……」

 話の出鼻をくじかれたからなのか、エマはぷうっと頬を膨らませ両手を下ろし杖を消した。
 んっ、と咳払いをすると真っ直ぐにジェイドを見据える。

「私はエマ・グレッタ・フュー、魔女よ。ジェイド・レイズあなたの親族になるわ」

 エマは私に話したように、自身の事を話しはじめた。
 その内容に、ジェイドは終始驚いた顔をしていた。そうして現レイズ侯爵の魔力はエマが封じたことで現れなくなった事、その理由を聞くと納得したように頷いた。
 それから、エマの姿を確かめるように見「あなたが俺の始祖、ということですか?」と声を低くした。

「そうよ、私は簡単に言えばあなたのお婆ちゃんね。でもそうは呼ばないで、私の事はエマと名前で呼んで欲しいわ」

 軽く答えたエマは、視線をギルに向ける。
 椅子の上で寝そべっていたギルは座りなおし、ジェイドを見た。

「僕はお爺ちゃんだよ」
「はっ?」

 ジェイドは、目を見開いた。
 思っていた反応だったのか、ギルは楽しそうに尻尾を振る。

 ――やっぱりそうだった。

 これまで聞いてきた言葉の意味。

『今は犬』『犬になった僕』
『犬だから声が少し違うのかな?』『久しぶりに話した』
『僕は犬だし、抱きしめてあげられない』

 これまでエマが時折見せたギルを見る時のせつない表情の訳も、話せるようになったギルとエマの会話が、まるで恋人や夫婦の様だったことも、今知った事実がすべての謎を解いてくれた。

 けれど、今日彼らに会ったばかりのジェイドは混乱したように表情をころころと変えている。

「お爺ちゃん? はっ? どうして犬?」

「俺は犬の子孫なのか?」と言っているジェイド。それを聞いたエマが「そんな訳ないでしょう?」と笑った。

「彼の名前はギル・ルーク・フュー、魔法使いよ。彼は私を庇い、犬になってしまったの」

 そこからエマはある事を思い出しながら、苦しげな表情で話し始めた。
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