まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
ジェイドの曽祖父であったダミアン・レイズ侯爵。
彼が魔力を持つ者の約束を破った事を許せなかったエマは、ギルと共に彼の魔力を封印しに向かった。だがそこで、それを拒むダミアンと争う事となったのだ。
とはいえこちらは二人、それも彼の始祖となる者達だ。
魔力の封印は簡単にすむと思っていた。しかしダミアンの魔力は思いの外強大で、二人は苦戦を強いられる。
魔力を封じる魔法は、エマにしかかけることが出来ないものであり、一人にかけるとはいえ、この先々生まれ来る子孫の魔力にまで影響を及ぼす封印は何度も放つ事が出来ないものだった。
その上厄介な事に、ダミアンは、複数の魔法を繰り出せる魔法使いのギルの素質を受け継いでいた。
封印を拒むダミアンから放たれる無数の魔法の刃にはギルが応戦し、エマはその隙を狙い魔力を封印しようとする。
ギルとダミアンの力は互角。
終わりの見えない長い戦いに埒が明かないと考えたのか、ダミアンは攻撃魔法ではなく、動物に変化をする魔法を放ってきた。
封印をさせなければいいのだ。杖も持てず、呪文を唱える事も出来ない動物へと姿を変えればいいと考えたのだろう。
一度に放たれたその魔法のほとんどはギルの魔法により打ち消す事が出来た。だが、見落としてしまった一つがエマの目の前に迫り、ギルは咄嗟に体を張ってそれを受けた。
ギルの変化を見たダミアンは、一瞬の隙を見せる。
エマはそれを見逃さず、彼の魔力を封印した。
その事に、ダミアンは驚愕した。
変化や封印の魔法は、かけた者にしか解くことはできない。
どちらかが受け変化をとげれば、自分の魔力は決して封印されるはずはないと思っていたからだ。
「今すぐ私の封印を解け、そうしなければお前の夫は永遠に犬のままだ!」
ダミアンは高々と声を上げ笑うと、今すぐ封印を解けばギルの姿を戻してやると交渉してきた。
エマはそれを吞もうかと考えたが、犬となったギルが首を横にした。
エマは「私は夫がどんな姿になろうと構わない。彼を愛する気持ちは変わらない」とダミアンに告げ、ギルを連れその場から立ち去った。
その後、彼が心を入れ替え、魔力を人を助ける為にのみ使うと約束をすれば封印を解こうかと考えていたが、魔法は解かれる事はなく、ダミアン・レイズ侯爵の寿命は尽きた。
彼が亡くなった事により、エマにもレイズ侯爵一族にかけた魔力の封印は永遠に解くことが出来なくなった。
そうしてギルもまた、二度と人の姿に戻る事は叶わなくなった。
「犬になっても寿命は変わらないし、心は『人』の時のままだから生きていく事にはそれほど困る事はなかったけれど、泣いているエマを慰める事も抱きしめる事も出来ないと気づいたときは、ちょっとだけ後悔したよ。それに魔法も使えないしね」
本当の事を言うと、体に慣れるまでは大変だったんだ、とギルは口角を上げる。
「その解けるはずのない魔法を、ローラが解いてくれた。君の『願い』が僕に言葉を取り戻させてくれた」
ありがとう、とギルは私に頭を下げた。
エマも同じようにお礼を言う。
「ローラが解いた?」
ジェイドは眉根を寄せている。
それを見たエマは不思議そうな顔をした。
「ジェイド、あなたも彼女に封印を解かれている。だからあの時、ローラの下へ転移したのでしょう?」
「俺が転移を?」
どうやら自身の魔力に気づいていないジェイドに、エマは先ほど起きた話をはじめた。
ローラが峡谷に落ちたと同時に、叫びながら消えたと話すとジェイドはその事は覚えていると言う。
気づいたら目の前にローラがいて、抱きしめたところまでは記憶にあるがそれだけ、魔女であるエマが魔法で送ってくれたとばかり思っていた、とジェイドは話した。
「そうなの? まだ完全に封印は解けていないのかしら?」
エマは頬杖をついてジェイドを見入る。
ギルは彼を見た後で視線を私に向けた。
「ローラの力が、まだ完全じゃないのかも知れない」
フワリと尻尾を揺らし話したギルに、エマは首を傾げる。
「どういうこと?」
「魔法や加護の力は使ったその場で現れる。だけどローラの力は違う。現れるまでには時間があるようだ。それもバラバラ、僕に願ってくれたのは昨日だけれど、ジェイドに願ったのは何日も前の事。けれど願いが叶えられたのはほぼ同じ時だった。ローラが叫んで……」
尻尾を揺らしていたギルはその動きを止め、真っ直ぐに私を見つめる。
「あのね、ローラ」
「はい」
「よかったら今、僕が元の姿に戻れるように願って欲しい。君の力を確かめると言う意味もあるけど、僕は戻れるものなら人の姿に戻りたいんだ」
新緑の瞳は懇願するように私を見ている。
「私からもお願い」
せつなげな表情で私に頼むエマ。
正面に座るジェイドは、まだ話がよく分からないのだろう。不思議そうな顔で私達を見ている。
願う事で叶う力、本当に私にそんな力があるのかは分からない。
それでも……。
私に出来る事なら……。
「私に出来るのかは分かりませんが、是非やらせてください」
私は昨日願いをかけた時のように、ギルの頭に手を乗せた。
目を閉じて、心を込める。
――どうか。
「ギルが元の姿に戻りますように」
元の姿に戻り、エマの側にいてあげて欲しい。抱きしめてあげて欲しい。
どうか、人の姿に戻りますように――。
その時、フワリとギルの体が一瞬光った。
彼が魔力を持つ者の約束を破った事を許せなかったエマは、ギルと共に彼の魔力を封印しに向かった。だがそこで、それを拒むダミアンと争う事となったのだ。
とはいえこちらは二人、それも彼の始祖となる者達だ。
魔力の封印は簡単にすむと思っていた。しかしダミアンの魔力は思いの外強大で、二人は苦戦を強いられる。
魔力を封じる魔法は、エマにしかかけることが出来ないものであり、一人にかけるとはいえ、この先々生まれ来る子孫の魔力にまで影響を及ぼす封印は何度も放つ事が出来ないものだった。
その上厄介な事に、ダミアンは、複数の魔法を繰り出せる魔法使いのギルの素質を受け継いでいた。
封印を拒むダミアンから放たれる無数の魔法の刃にはギルが応戦し、エマはその隙を狙い魔力を封印しようとする。
ギルとダミアンの力は互角。
終わりの見えない長い戦いに埒が明かないと考えたのか、ダミアンは攻撃魔法ではなく、動物に変化をする魔法を放ってきた。
封印をさせなければいいのだ。杖も持てず、呪文を唱える事も出来ない動物へと姿を変えればいいと考えたのだろう。
一度に放たれたその魔法のほとんどはギルの魔法により打ち消す事が出来た。だが、見落としてしまった一つがエマの目の前に迫り、ギルは咄嗟に体を張ってそれを受けた。
ギルの変化を見たダミアンは、一瞬の隙を見せる。
エマはそれを見逃さず、彼の魔力を封印した。
その事に、ダミアンは驚愕した。
変化や封印の魔法は、かけた者にしか解くことはできない。
どちらかが受け変化をとげれば、自分の魔力は決して封印されるはずはないと思っていたからだ。
「今すぐ私の封印を解け、そうしなければお前の夫は永遠に犬のままだ!」
ダミアンは高々と声を上げ笑うと、今すぐ封印を解けばギルの姿を戻してやると交渉してきた。
エマはそれを吞もうかと考えたが、犬となったギルが首を横にした。
エマは「私は夫がどんな姿になろうと構わない。彼を愛する気持ちは変わらない」とダミアンに告げ、ギルを連れその場から立ち去った。
その後、彼が心を入れ替え、魔力を人を助ける為にのみ使うと約束をすれば封印を解こうかと考えていたが、魔法は解かれる事はなく、ダミアン・レイズ侯爵の寿命は尽きた。
彼が亡くなった事により、エマにもレイズ侯爵一族にかけた魔力の封印は永遠に解くことが出来なくなった。
そうしてギルもまた、二度と人の姿に戻る事は叶わなくなった。
「犬になっても寿命は変わらないし、心は『人』の時のままだから生きていく事にはそれほど困る事はなかったけれど、泣いているエマを慰める事も抱きしめる事も出来ないと気づいたときは、ちょっとだけ後悔したよ。それに魔法も使えないしね」
本当の事を言うと、体に慣れるまでは大変だったんだ、とギルは口角を上げる。
「その解けるはずのない魔法を、ローラが解いてくれた。君の『願い』が僕に言葉を取り戻させてくれた」
ありがとう、とギルは私に頭を下げた。
エマも同じようにお礼を言う。
「ローラが解いた?」
ジェイドは眉根を寄せている。
それを見たエマは不思議そうな顔をした。
「ジェイド、あなたも彼女に封印を解かれている。だからあの時、ローラの下へ転移したのでしょう?」
「俺が転移を?」
どうやら自身の魔力に気づいていないジェイドに、エマは先ほど起きた話をはじめた。
ローラが峡谷に落ちたと同時に、叫びながら消えたと話すとジェイドはその事は覚えていると言う。
気づいたら目の前にローラがいて、抱きしめたところまでは記憶にあるがそれだけ、魔女であるエマが魔法で送ってくれたとばかり思っていた、とジェイドは話した。
「そうなの? まだ完全に封印は解けていないのかしら?」
エマは頬杖をついてジェイドを見入る。
ギルは彼を見た後で視線を私に向けた。
「ローラの力が、まだ完全じゃないのかも知れない」
フワリと尻尾を揺らし話したギルに、エマは首を傾げる。
「どういうこと?」
「魔法や加護の力は使ったその場で現れる。だけどローラの力は違う。現れるまでには時間があるようだ。それもバラバラ、僕に願ってくれたのは昨日だけれど、ジェイドに願ったのは何日も前の事。けれど願いが叶えられたのはほぼ同じ時だった。ローラが叫んで……」
尻尾を揺らしていたギルはその動きを止め、真っ直ぐに私を見つめる。
「あのね、ローラ」
「はい」
「よかったら今、僕が元の姿に戻れるように願って欲しい。君の力を確かめると言う意味もあるけど、僕は戻れるものなら人の姿に戻りたいんだ」
新緑の瞳は懇願するように私を見ている。
「私からもお願い」
せつなげな表情で私に頼むエマ。
正面に座るジェイドは、まだ話がよく分からないのだろう。不思議そうな顔で私達を見ている。
願う事で叶う力、本当に私にそんな力があるのかは分からない。
それでも……。
私に出来る事なら……。
「私に出来るのかは分かりませんが、是非やらせてください」
私は昨日願いをかけた時のように、ギルの頭に手を乗せた。
目を閉じて、心を込める。
――どうか。
「ギルが元の姿に戻りますように」
元の姿に戻り、エマの側にいてあげて欲しい。抱きしめてあげて欲しい。
どうか、人の姿に戻りますように――。
その時、フワリとギルの体が一瞬光った。