まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 ジェイドが口にしたその一言に、熱くなっていた体がスッと冷えていく。

「ジェイド……」

 私に名前を呼ばれた彼は、何でもなかった様に熱い視線を向けている。

「私に子供はできないわ」
「どうして? そんなこと分からないだろう? 一度医師に診てもらった時にはどこも悪くないと言っていたじゃないか」

 言葉の通り、子供を授かれないと気にしていた私の為に、彼は仕事先であるサムス公爵家の医師に体を診て欲しいと頼んでくれた。
 医師は私の手のひらや舌、目などを見た後「問題は無い、まだ若いから気にしない事」と話した。

 気にするなと言われても、どうしても考えてしまっていて……。
 そんな時、彼がお茶を手に入れたと渡してくれた。

「お茶を飲んでいたから、授かるはずはないの」
「どういう……」

 声を詰まらせた彼は、エマとギルを見回す。

「あのお茶は、あなたが私の為に取り寄せてくれた物だとお義母様は言われたわ」
「それは……」
「あなたには想う人がいるから、その方と結婚したいと考えているからって」
「想う人?」
「クリスタ様よ」
「クリスタ? どうしてそう思った?」
「ジェイドはクリスタ様とレイズ侯爵邸で何度も逢瀬を重ねていると言われたの。言葉の通り、侯爵邸から帰ったあなたからは甘いユリの香りがしていた。彼女と逢瀬を重ねた証拠だわ。それに、私と別れたいと思っていると可哀想だと思って言えないと、あなたはもう私の事は愛してはいないと言われたの」

 言いながら、だんだんと目頭が熱くなってきた。
 ――今は泣きたくない。
 泣いてしまえば何も言えなくなってしまう。

「どうして? どうしてそんな話……なぜ信じた? 俺はずっと君を愛していただろう? 言葉でも態度でも君に伝えてきたはずだ」

 レイズ夫妻から彼の本心を聞いた後も、彼自身から愛している、好きだと何度も言ってもらった。
 何度も抱き合った。
 けれど……。

「男性は愛がなくても女性を抱けると、お義父様に言われたの」

 あの日聞いた言葉を彼に告げた。

「うわぁ……」それを聞いていたギルが、ため息の混じった声を漏らす。

「最低ね、信じられない」
 顔を引きつらせながら、エマが言う。

 ジェイドは、まさか父親がそんな事を私に話しているとは思いもしなかったのかしばらく声にもならず口を開いていた。

「……なんてことを……あの人は……」
 そのままテーブルに目を落とした彼は、ハッと顔を上げた。

「けれどその話と、あのお茶に何の関係が?」

「ジェイドは知らないの?」

 もしかして、彼は知らずにお茶を渡していたの?
 私はずっと、お義母様に言われた事を信じていたけれど……。
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