まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 ――心を開く。その事が、力を現す為に必要だったの?
 確かに、私は離縁を決意し彼との思い出を持って行こうとあの夜、はじめて心のままに行動した。
 馬車の中で、思い切り泣いて、死んでも構わないと湧水を飲んだ。
 ここに来て、エマにお母様が亡くなった事は私のせいではないと言ってもらえ、心がスッと軽くなった。
一緒に入ったお風呂の中で、胸の奥にあったものを吐き出して。
 ジェイドにも……自分の気持ちを伝えられた。素直になれた。

 それが全て私の持つ力を開くカギだったという事?

「でも、ローラの力が封印を解き石や土を蘇らせるという事は分かったけれど、それだけかな?」
「というと?」
「瞳の色だよ。どうしてローラだけが淡紅色なのか、僕はなにか理由があると思っているんだ」

 六つの新緑の瞳が私へと向けられる。

「お母様は何色の瞳だったか聞いている?」

 エマに言われ、私は首を横に振った。
 お母様の事で知っているのは一つだけ。
 髪を梳きながら、乳母が溢した一言。
『この蜂蜜色の金の髪は、奥様にとてもよく似ています』
 それを聞いた時はとても嬉しかった。

「髪の色しか分かりません」

「いいんだ、聞いてみただけ。たぶん淡紅色じゃないね。ローラの瞳の色がお母様と同じなら……」

 もっと大切に扱われたはずだ、とギルは声を小さくした。

「ローラに現れた力が何なのか、精霊を呼び出して聞けば早いけれど、今の彼らは簡単に人前に現れてはくれないし。それこそ公爵達が契約を交わした時代に遡れないと無理だわ。……そんな事は私にも出来ないけれど」

 エマは、魔法を使っても過去に戻る事は出来ないのだと話してくれた。居るはずのなかった者が干渉すれば、現在に歪みが生じる。それに、そんな事が出来るのなら、ギルは犬になんかなっていないわ、と笑った。

「これ以上の話は出来ないね、じゃあ、ローラの話はここまでにしよう。
あ、そうだローラ、もし体調に不安があればすぐにエマに言うんだよ? ジェイドは大丈夫そうだけれど、力を持ったばかりの体は疲れやすいからね」

 子供の時に現れれば力は体の成長と共に大きくなるためあまり問題はない。けれど私とジェイドはすでに大人の体。今までなかった力に適応しようとして不調が現れるはずだと、ギルは心配そうに話した。

「はい」
「分かりました」

 返事を聞いたギルは頷くと、エマが撫でている水晶玉に目を向けた。

「そういえばエマ、あのアクアトスはどうやって送り返したの?」

 ぼんやりと水晶玉を撫でていたエマはハッと目を見開き、手を止めた。

「ああ、あの時? ジェイドが叫んで消えたのを見たあの女は一瞬、驚いたように動きを止めたのよ。その隙に、ジェイドを押さえていた二人の男と一緒に山道に留まっていたアクアトス公爵の馬車へ送ったの」
「じゃあ、彼らはジェイドが魔法を使ったと分かったのかな?」

「どうかしら? 消えた所は見ていたけれど、魔法と気づいたどうか……そうね、水晶玉で見てみましょう」
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