まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 貴族というものは名声や建前を大切にし、醜聞を嫌う。それが家の汚点となるべきものなら、はじめからなかった様にもみ消してしまう事さえある。

 実際、アーソイル公爵家に生まれていながら加護の力を持たなかった私は一人、遠くへ置き去りにされた。土の加護の決まりのおかげで、私に直接手を下されるようなことはなかったが、当主であったお爺様は命を落とすのを待っておられた。

 しかし、同じように力を持つ者であるレイズ侯爵は、生まれてきた子供に魔力が無くとも冷遇する事なく育てられている。
 そこには愛情があったからだと私は思う。

「嘘を吐かれた事は悲しかった。離縁を告げられた事も。でもそうされたのは魔力の為だけではないわ。ご両親はあなたを想って決められたのよ。加護もなく、アーソイル公爵からも縁を切られた上に子も持てない私と、アクアトス公爵様に大切にされ、強い加護の力を持つ美しいクリスタ様なら誰だって彼女を選ぶもの」

「ローラ……」

「でも私はここへ来て、あなたとクリスタ様を見て分かったの。あなたの隣に他の女性がいるのはすごく嫌だった。ご両親に離縁を告げられたあの時は、あなたが幸せになるのならそれでいいと思い、自分の気持ちを偽り離縁を受け入れた。
だけど今は、ご両親に何を言われてもあなたと別れる事は出来ないと、自分の気持ちを伝えられるから」

 ジェイドは唇を噛み首を横に振り「両親を信用できない、また酷いことを言って君を傷つけるかもしれない」と苦しそうな声を漏らした。

 私達の様子を黙って見ていたギルがゆっくりと口を開いた。

「ジェイド、君はローラを連れて家に帰るべきだ」

 その言葉に、ジェイドは眉根を寄せる。

「どうしてですか?」

「ローラはようやく勇気を持った。君の両親に自分の気持ちを伝え、ジェイドの妻として認めて欲しいと思っているんだ。ローラ、そうだよね?」

 ギルは自分の髪をひと房持つと、それを尻尾の様に振って見せた。

「はい、そうです」

 私の返事を聞くとコクコクと首を縦にする。

「このまま君がローラと行方をくらませれば、レイズ侯爵は君達を探すだろう。それに、レイズの名を捨てるつもりならなおさら彼らと会う必要があるはずだ。アクアトスのお嬢さんもまだ君を諦めていない様子だしね。
ローラの為にも、一度帰って彼等ときちんと話をしておいで」

 優しく穏やかなギルの言葉に、ジェイドは渋々頷いた。


「あ、でも帰るのは明日にして欲しい。僕、今夜はごちそうを作るから」
 もう仕込みも終わっているんだよね、とギルは口角を上げた。
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