まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 空に星が瞬き始めた頃、私達はようやく家に着いた。

 ステラを小屋に繋ぎ、水と食料を与えていざ家に入ろうとすると、ジェイドはその端正な顔に暗い影を落とした。

 どうしたのだろう?
 首を傾げ尋ねると、彼は家の中には何もないのだと声を弱める。

 ジェイドと愛を確かめ合ったあの夜、恥ずかしがる私の為(?)彼はこの家に戻ろうと思い、魔法を使い覗き見た。するとレイズ夫妻が家の中の物をすべて運び出す光景が見えたという。
(だからあの時顔を顰めていたのね)

 けれど、すべて運び出すとはどうしてだろう? 私が出ていったとしても、この家にはジェイドは暮らす。それなのになぜ? と考えたけれど、答えはすぐに出た。
 レイズ侯爵夫妻はクリスタ様との結婚を望んでいた。
 クリスタ様が暮らそうとするこの家に、私が使った家具を置いては置けなかったのだろう。クリスタ様が嫌ったのかも知れない。

 私は微笑んで「気にしなくていい、大丈夫だから」と告げたけれど、ジェイドはせつなげな表情を浮かべる。

 ――また、本心を隠していると思っているの?
(自分の気持ちを素直に表すって難しい……)

「じゃあ、開けるよ」

 ジェイドは決心したように玄関扉を開き中に入ると明かりを灯した。
 その後に家の中に入った私は「あっ」と小さく声を上げる。

「ここまでとは思わなかったな」

 ジェイドは髪をくしゃくしゃと掻き上げ苦笑する。

 ――本当に何もない。

 玄関のホールに置いてあった花瓶も小さなテーブルも泥除けのマットまでなくなっている。
 さらに扉を開け居間へと進むが、そこにも何一つなかった。
 長椅子も、ひじ掛け付きの一人掛けのソファーも壁に掛けていた絵画も。もう一つの部屋に置いてあったチェストや飾り棚、キッチンのテーブルや椅子も全て無くなっている。
 
「……はじめてここに来た日と同じね」

 私はポツリと呟いた。
 そこにある光景は、彼にこの家に連れて来てもらった時と同じ。

 ジェイドが私と暮らすために購入してくれたこの家。
 今のように、何もないところから二人で少しずつ家具を選び揃えていった。
 二人で選んだその家具が無くなった事は少しだけ、残念に思うけれど……。

 無くなってしまった家具はまた新しい物を手に入れればいいだけ。物に思い出は宿るというけれど、物が無くなっても心の中の思い出までは無くならない。

「でもこのままじゃ食事をする時に困るわね。ピクニックみたいに布を敷いて、床に座って食べてもいいけれど、できるならテーブルとイスは早めに欲しいわ」

 私の言葉は思いがけないものだったらしくジェイドは何度も瞬きをした。

「また買い物に連れて行ってね」

 ニッコリと笑って見せると、彼は泣きそうな顔をして私を抱きしめた。

「……そうだね。ローラ、明日にでも買いに行こう」
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