まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 ――さらにひと月が過ぎた。

「ローラ……」

 朝から、何だかせつない顔をしたジェイドが玄関口で私を抱きすくめる。

「ジェイド?」

 今日は午前中に、サムス公爵家の子供たちを連れ城へ向かわなければならないと昨夜話していた。
 こんなことをしている時間はないと思うのだけれど?

「そろそろ限界だ……」
「時間がないの? だったらこうしていないで早く行かないと」
「違うよ……。ねぇ」

 ジェイドは私の頬に添えた手の指を動かし、そっと撫でる。

「どうしたの?」
「キスしたい」

 彼のその声は甘く、見つめる目は欲情を孕んでいる。

「でも、もう仕事に向かわないと……」

 私の言葉を呑み込むように、彼はそのまま強引に唇を重ねた。

 頬を撫でていた手は、頭を抱えるように後ろへとまわされる。
 私は自然と喉を逸らした格好になる。開いた唇の間から彼の熱い舌先が入り込んだ。

「……っ」

 もう片方の腕で私を抱きすくめたジェイドは、さらに深く舌を入れ口腔を舐りだした。
 激しいけれど甘い口づけに、体は火照りはじめる。

 私だって、彼を求めている。ただ、睡魔に負けてしまっているだけ……。
 でも……。
 ジェイドはさらに強く抱きすくめ下半身を押し付ける様に当て、そこにある昂ぶりを感じさせて。
(限界、とはそういう意味だったのね……)

「ローラ……」

 私の名前を吐息とともに呼ぶ彼の声は、甘くせつない。
 彼は私を欲してくれている、それは分かったけれど……。

 今は、今朝はどうしても彼の愛を受け入れている時間はない。

「ジェイド、今はダメ……これ以上は……」

 吐息交じりにそう告げると、ジェイドは諦め腕を離した。
「今日は絶対早く帰って来るから」と告げると、ふうっと大きく息を吐き、仕事へ向かった。

「早く帰ってきてね」

 すでに出掛け姿の見えなくなった彼に向け、声をかけた私は、キスの余韻を感じる暇なく急いで支度をはじめた。
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