まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 今日はジェイドの二十五歳の誕生日。

 実は一昨日、またお義母様が来られた。
 もう一度石を換えて欲しいと頼まれ、その時に明後日のジェイドの誕生日に渡して欲しいとプレゼントを預かった。
「要らないと言われてしまうかも知れないから、当日まで秘密にしておいて」
 そう告げられたお義母様の顔は、とても寂しそうだった。

 納戸の奥に隠しておいたお義母様からの贈り物を取り出し、テーブルクロスをかけた居間のテーブルに置いた。
 家の庭に咲いたバラを数本切り花瓶に飾る。
 簡単な準備をすませ、自分の支度にとりかかる。
「急がないと」

 今から買い物をするために街へ出るのだ。
 今夜は、ギルに教えてもらったお肉の香草焼きを作るつもりでいる。

 新しく買ってもらった若草色のワンピースを着て、髪を整え小さな髪飾りをつけた。
 窓から見上げた空は、まばらに雲はあるもののとてもよく晴れている。
 私は、日焼けするとすぐに肌が赤くなってしまうため、つば広の白い帽子を深めに被った。

 小さな鞄にお財布と、お菓子店の引き換え券を入れる。
 実は五日ほど前に、サムス公爵マクシミリアン様からお手紙をいただいた。
 彼の誕生日にケーキを注文しているが、自分はその日用事が出来てしまった為、受け取りに行って欲しいと書かれていた。
 そこは、予約だけでも半年は待たなければならないといわれている人気の菓子店だと記されていた。
 今からそこへ行き、ケーキを受け取り、お肉と彼へのプレゼントを買うつもりだ。
 支度を済ませた私は、何度も戸締りを確認し玄関扉の鍵をかけた。

「行ってきます」

 結婚してから、一人で外に出るのは、これがはじめてだ。
 私はどうしても、声が大きな人の前では怯えてしまう。
 その為、外に出る時は必ずジェイドが一緒だった。

 レイズ侯爵に離縁を告げられるまで、私は何もかも彼に頼ってばかりだった。
 そうしてそれを、当たり前の事だと思ってしまっていた。
 けれど今、それではいけないと思っている。

 そもそもこの辺りの治安は良いらしく、昼間なら、女性が一人で買い物に行く事は普通に出来る。

 少し不安はあるけれど、買い物ぐらい私一人でも行けるようにならなくては。
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