まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
――アーソイル公爵閣下が訪れる……?
それは私に会いに来るという事?
乳母に会わせるためだけではなかったの?
もしかしたら、私はこのまま彼の許へ帰れないのでは……。そんな不安が頭をかすめる。
「ローラさん?」
部屋の奥から声が聞こえる。
「ローラさんでしょう?」
それは六歳の頃別れて以来、会うことが叶わなかった私の……大事な人の声。
「マイアさん」
あの頃は呼ぶことを許されなかった乳母の名前を呼びながら駆け寄り、手を握った。
「ローラさん、大きくなって……」
乳母は涙ぐみ声を詰まらせる。
「マイアさん……」
――私にとって、母親のような存在だった乳母のマイア。
乳母の優しい茶色の瞳、柔らかな笑顔、キレイに纏められた黒髪は変わらないものの、その姿は覚えているよりも何だか小さく感じた。
別れた時、私はまだ六歳だったのだから、そう思うのだろう。
「マイアさん、会いたかった……」
そう言った私の目は涙で滲んだ。
たくさん話をしたいのに、胸が詰まって上手く言葉に出来ない。
「……ローラさん、私もお会いしたかった」
乳母は頭を下げ、声を落とした。
「……ごめんなさい」
下を向いたまま、マイアは首を横に振る。
――なぜ謝るの?
「どうして?」
「私は、決していい乳母ではありませんでした」
「そんな事ないわ」
生まれてから別れるまでの六年間、私にとって乳母マイアだけが幸せだった。
本当の母親だと思っていた事もある。決して口にはしなかったけれど、私には家族だった。その事を伝えると、マイアはハラハラと涙を溢した。
「ローラさん……ローラ」
マイアは優しい声で愛おしそうに私の名前を呼ぶ。
「ずっと、こういう風に呼びたかったのです」
「マイアさん……」
私も、ずっとそう呼ばれたかった。
『ローラさん』と呼ばれるたびに乳母との間に距離を感じていた。
使用人達が名前で呼び合い楽しそうに話す姿を見て、一度乳母に私の事も『ローラ』と呼んで欲しい乳母の事は『お母さん』と呼びたいと言った事もある。けれどダメだと言われてしまった。
「私は乳母でしかないけれど、あなたの事は、本当の娘の様に思っていた。けれどあなたの乳母と決まった私に、公爵閣下は約束事をされたのです。それは、あなたに決して情を持って接してはならないというものでした」
マイアは震える声で話を続けた。
「監視の目もあり、私はその命令に従うしかありませんでした。私は距離を置くようにしました。あなたに求められてもなるべく触れない様にしていました……」
「マイア……」
「ローラ、たくさんあなたの名前を呼びたかった。抱きしめたかった。
あなたに何も言わず別荘に送る事になってしまったあの日、私は我慢できずにあなたを抱きしめたのです。本当は一緒に行こうと泣いたあなたと共に行きたかった……」
マイアは泣きながらそう話した。
私を抱き、別れを告げたその行為は公爵閣下に報告され、その日のうちに別荘の反対側にあるアーソイル公爵家の持つ別邸に送られ働くことになった。
私の事は一切知る事を許されず、また私という存在を一番よく知る為、監視をつけられ公爵邸を辞める事も許されなかった。
それが昨日、突然私に会わせると言われたという。
「この部屋に入り、しばらくすると扉の向こうから使用人たちの声が聞こえてきたのです。私をここへ呼び戻したのは、結婚し家を出たあなたを公爵邸へ呼び戻すため。全て仕組まれた事だと」
「私を呼び戻す?」
「その理由までは分かりませんが、一度手放したあなたをまた呼び戻したという事は、アーソイル公爵家は、あなたを家に帰すつもりはないと思います。ローラ、あなたは今、幸せに暮らしているのでしょう?」
「……はい、とても」
マイアは、旦那様に大切にされ幸せだという事はあなたを見てすぐに分かったと、自分の事のように嬉しそうに笑った。
「ローラ、すぐにここから逃げましょう。まだ公爵閣下が来るまでには時間があるはずです」
マイアは私の手を取り、窓から出られるかも知れないと話す。
それは私に会いに来るという事?
乳母に会わせるためだけではなかったの?
もしかしたら、私はこのまま彼の許へ帰れないのでは……。そんな不安が頭をかすめる。
「ローラさん?」
部屋の奥から声が聞こえる。
「ローラさんでしょう?」
それは六歳の頃別れて以来、会うことが叶わなかった私の……大事な人の声。
「マイアさん」
あの頃は呼ぶことを許されなかった乳母の名前を呼びながら駆け寄り、手を握った。
「ローラさん、大きくなって……」
乳母は涙ぐみ声を詰まらせる。
「マイアさん……」
――私にとって、母親のような存在だった乳母のマイア。
乳母の優しい茶色の瞳、柔らかな笑顔、キレイに纏められた黒髪は変わらないものの、その姿は覚えているよりも何だか小さく感じた。
別れた時、私はまだ六歳だったのだから、そう思うのだろう。
「マイアさん、会いたかった……」
そう言った私の目は涙で滲んだ。
たくさん話をしたいのに、胸が詰まって上手く言葉に出来ない。
「……ローラさん、私もお会いしたかった」
乳母は頭を下げ、声を落とした。
「……ごめんなさい」
下を向いたまま、マイアは首を横に振る。
――なぜ謝るの?
「どうして?」
「私は、決していい乳母ではありませんでした」
「そんな事ないわ」
生まれてから別れるまでの六年間、私にとって乳母マイアだけが幸せだった。
本当の母親だと思っていた事もある。決して口にはしなかったけれど、私には家族だった。その事を伝えると、マイアはハラハラと涙を溢した。
「ローラさん……ローラ」
マイアは優しい声で愛おしそうに私の名前を呼ぶ。
「ずっと、こういう風に呼びたかったのです」
「マイアさん……」
私も、ずっとそう呼ばれたかった。
『ローラさん』と呼ばれるたびに乳母との間に距離を感じていた。
使用人達が名前で呼び合い楽しそうに話す姿を見て、一度乳母に私の事も『ローラ』と呼んで欲しい乳母の事は『お母さん』と呼びたいと言った事もある。けれどダメだと言われてしまった。
「私は乳母でしかないけれど、あなたの事は、本当の娘の様に思っていた。けれどあなたの乳母と決まった私に、公爵閣下は約束事をされたのです。それは、あなたに決して情を持って接してはならないというものでした」
マイアは震える声で話を続けた。
「監視の目もあり、私はその命令に従うしかありませんでした。私は距離を置くようにしました。あなたに求められてもなるべく触れない様にしていました……」
「マイア……」
「ローラ、たくさんあなたの名前を呼びたかった。抱きしめたかった。
あなたに何も言わず別荘に送る事になってしまったあの日、私は我慢できずにあなたを抱きしめたのです。本当は一緒に行こうと泣いたあなたと共に行きたかった……」
マイアは泣きながらそう話した。
私を抱き、別れを告げたその行為は公爵閣下に報告され、その日のうちに別荘の反対側にあるアーソイル公爵家の持つ別邸に送られ働くことになった。
私の事は一切知る事を許されず、また私という存在を一番よく知る為、監視をつけられ公爵邸を辞める事も許されなかった。
それが昨日、突然私に会わせると言われたという。
「この部屋に入り、しばらくすると扉の向こうから使用人たちの声が聞こえてきたのです。私をここへ呼び戻したのは、結婚し家を出たあなたを公爵邸へ呼び戻すため。全て仕組まれた事だと」
「私を呼び戻す?」
「その理由までは分かりませんが、一度手放したあなたをまた呼び戻したという事は、アーソイル公爵家は、あなたを家に帰すつもりはないと思います。ローラ、あなたは今、幸せに暮らしているのでしょう?」
「……はい、とても」
マイアは、旦那様に大切にされ幸せだという事はあなたを見てすぐに分かったと、自分の事のように嬉しそうに笑った。
「ローラ、すぐにここから逃げましょう。まだ公爵閣下が来るまでには時間があるはずです」
マイアは私の手を取り、窓から出られるかも知れないと話す。