まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
「二人とも、それはちょっと待ってくれない?」
突然、穏やかで優しい男性の声が頭上から聞こえてきた。
「…………ギル?!」
白い煙が人の形を作り、そこからギルが現れた。
大きな声を上げてしまった私に、ギルは人差し指を口の前にたて「静かに」と声を潜めると、持っていた杖を振りながら呪文を囁いた。
乳母は突然現れた見知らぬ人に驚き、両手で口を押えている。
「外に声が漏れないようにしたからね、話をしても大丈夫」
ギルはニッコリと笑う。
「ギル……どうしてここへ?」
「ジェイドに頼まれてずっとローラを見ていたんだ」
「ジェイドに?」
ギルはコクコクと頷き、ジェイドは全て気づいていると話した。
サムス公爵からの手紙も、今日私が出かける事も分かっていたのだと言う。
「ジェイドは僕と似ているんだ。だから感じたんだと思う。隠してあった手紙を見て、そこに押されていた蝋印にクリスタ嬢の力を感じたらしい。手紙自体からはアーソイル公爵の気配がしていた。ジェイドは罠だと考え、君に伝えようとしていた。でも、その前にレイズ夫人が箱を持ってきたからね。言えなくなったんだ」
「手紙……手紙も?」
アーソイル公爵はアクアトス公爵の力を借り、サムス公爵の名を語って私を捕らえようとしたということ?
――どうして?
私は、答えを求めるようにギルを見つめた。
「そう、残念だけどケーキは予約されていない」
「え?」
――違う答えが返ってきた。
「代わりに僕が作っておいたよ。お店の物と変わらないぐらい美味しいと思うけど?」
違う、ケーキの事じゃないと私は首を横に振る。
「そうじゃないの。ジェイドはお義母様が来られていた事も知っていたの? 箱に気づいたのなら、石の事も知っているの?」
「……うん。交換しに来ている事は知っていた」
「でも、あの箱は彼への贈り物なの。箱があるとどうして話せないの?」
「あの箱は、声を聞くものだ。家の中での会話は全て誰かに聞かれていたんだ」
「声?」
箱で声が聞けるなんて……。
でも、それなら私の行動が他の者に知られていた理由が分かる。
私は一人でいるとよく呟いてしまうから……。
「ローラ、君はレイズ夫人がどうして何度も石を取り替えに来たと思う?」
「え……?」
「ジェイドから、自分がいない間、君を見守っていて欲しいと僕とエマは頼まれていた。体調の事もあったけど、レイズ夫妻の行動を警戒していた。アクアトスのお嬢さんの事も、君に危害を加えるかも知れないと言っていたんだけど」
「危害なんて……。お義母様は、ただ必要だからと、石を交換しに来られていただけなの」
「まぁ、表向きはそうなんだけどね」
レイズ侯爵夫妻は、私に『力』が現れた事を知っているとギルは話した。
そのきっかけは離縁すると決めたあの日、置いて行くように言われたネックレスの石。
「彼ら二人もエマと僕の子孫だしね。そういう勘はするどかったみたいだ」
そこまで話すと、ギルは「ちょっと待って」と、目を丸くして話を聞いていた乳母の方に体を向けた。
「遅くなりました。はじめまして、僕は魔法使いのギルと言います。レイズ侯爵家の所縁の者で、ローラの家族です」
どうぞよろしく、とギルは乳母に手を差し伸べた。
その手を取った乳母は深々と頭を下げる。
「私はローラ様の乳母、マイアと申します」
挨拶を交わすと、ギルは私に向き直った。
「ローラ、このまま君たちをここから連れ出す事は簡単にできる。どうする?」
「え? どうするって?」
「連れ出す事は簡単だ、けれど僕には記憶を操作する事は出来ない。アーソイル公爵は消えてしまった君たちを逃げたと考え探すだろう。もちろんジェイドの下へ真っ先に行く。彼もいないとなれば、サムス公爵の下にも行くだろう」
力を持つ者は執着が激しいからね、とギルは話した。
それを聞いていたマイアは「ギル様はまるでローラの実のお父様の様ですね」と微笑んだ。
「え!?」
意外な事を言われたとばかりに、ギルは目を丸くする。
「問いながら、自分で答えを出すように導いておられるでしょう?」
そのマイアの言葉に、ギルはハッとした顔になった。
「あ――、ごめん。僕、すぐこういう言い方をするんだ。エマにもよく言われる、回りくどいって」
「そんな事……」
回りくどいのかは分からないけれど、ギルは私に自分で決断するように言ってくれたのだと思う。
「いや、そうなんだよ。うん、ローラハッキリと言うね。アーソイル公爵が君をここに連れてきた真意を聞いて欲しい。たぶん、公爵はローラに力が現れたことに気づいている、それがどうしてかを知りたい」
ギルは、優しい瞳に力を込める。
その事なら私も知りたい。
彼らに聞きたい事、知りたい事、言いたい事は幾つもある。
「私も知りたいです。加護なしだから、瞳の色が違うからと虐げ捨てておきながら、今度は攫うようにここへと連れて来た理由を、その真意を私は知る必要があります。知ったうえで、今度は……私から彼らと決別をします。――私は、ジェイドの許へ帰るから」
決心を胸にギルとマイアを見る。
ギルは大きく頷き、マイアは「大人になって……」と、目に涙を浮かべた。
「じゃあ、僕は姿を消すね。見えなくても、すぐ傍にいるから」
「私もいます」
マイアは、私の手を包み込むように握る。
「ジェイドも彼等と決着をつけたら、すぐにここへ来るよ」
「彼等と決着?」
――彼等って?
「ジェイドは今、エマと一緒にレイズ侯爵の下にいる」
「エマと一緒に?」
「うん。ジェイドは君を守る為、自分自身の為、しがらみから抜け出すと決めたんだ」
突然、穏やかで優しい男性の声が頭上から聞こえてきた。
「…………ギル?!」
白い煙が人の形を作り、そこからギルが現れた。
大きな声を上げてしまった私に、ギルは人差し指を口の前にたて「静かに」と声を潜めると、持っていた杖を振りながら呪文を囁いた。
乳母は突然現れた見知らぬ人に驚き、両手で口を押えている。
「外に声が漏れないようにしたからね、話をしても大丈夫」
ギルはニッコリと笑う。
「ギル……どうしてここへ?」
「ジェイドに頼まれてずっとローラを見ていたんだ」
「ジェイドに?」
ギルはコクコクと頷き、ジェイドは全て気づいていると話した。
サムス公爵からの手紙も、今日私が出かける事も分かっていたのだと言う。
「ジェイドは僕と似ているんだ。だから感じたんだと思う。隠してあった手紙を見て、そこに押されていた蝋印にクリスタ嬢の力を感じたらしい。手紙自体からはアーソイル公爵の気配がしていた。ジェイドは罠だと考え、君に伝えようとしていた。でも、その前にレイズ夫人が箱を持ってきたからね。言えなくなったんだ」
「手紙……手紙も?」
アーソイル公爵はアクアトス公爵の力を借り、サムス公爵の名を語って私を捕らえようとしたということ?
――どうして?
私は、答えを求めるようにギルを見つめた。
「そう、残念だけどケーキは予約されていない」
「え?」
――違う答えが返ってきた。
「代わりに僕が作っておいたよ。お店の物と変わらないぐらい美味しいと思うけど?」
違う、ケーキの事じゃないと私は首を横に振る。
「そうじゃないの。ジェイドはお義母様が来られていた事も知っていたの? 箱に気づいたのなら、石の事も知っているの?」
「……うん。交換しに来ている事は知っていた」
「でも、あの箱は彼への贈り物なの。箱があるとどうして話せないの?」
「あの箱は、声を聞くものだ。家の中での会話は全て誰かに聞かれていたんだ」
「声?」
箱で声が聞けるなんて……。
でも、それなら私の行動が他の者に知られていた理由が分かる。
私は一人でいるとよく呟いてしまうから……。
「ローラ、君はレイズ夫人がどうして何度も石を取り替えに来たと思う?」
「え……?」
「ジェイドから、自分がいない間、君を見守っていて欲しいと僕とエマは頼まれていた。体調の事もあったけど、レイズ夫妻の行動を警戒していた。アクアトスのお嬢さんの事も、君に危害を加えるかも知れないと言っていたんだけど」
「危害なんて……。お義母様は、ただ必要だからと、石を交換しに来られていただけなの」
「まぁ、表向きはそうなんだけどね」
レイズ侯爵夫妻は、私に『力』が現れた事を知っているとギルは話した。
そのきっかけは離縁すると決めたあの日、置いて行くように言われたネックレスの石。
「彼ら二人もエマと僕の子孫だしね。そういう勘はするどかったみたいだ」
そこまで話すと、ギルは「ちょっと待って」と、目を丸くして話を聞いていた乳母の方に体を向けた。
「遅くなりました。はじめまして、僕は魔法使いのギルと言います。レイズ侯爵家の所縁の者で、ローラの家族です」
どうぞよろしく、とギルは乳母に手を差し伸べた。
その手を取った乳母は深々と頭を下げる。
「私はローラ様の乳母、マイアと申します」
挨拶を交わすと、ギルは私に向き直った。
「ローラ、このまま君たちをここから連れ出す事は簡単にできる。どうする?」
「え? どうするって?」
「連れ出す事は簡単だ、けれど僕には記憶を操作する事は出来ない。アーソイル公爵は消えてしまった君たちを逃げたと考え探すだろう。もちろんジェイドの下へ真っ先に行く。彼もいないとなれば、サムス公爵の下にも行くだろう」
力を持つ者は執着が激しいからね、とギルは話した。
それを聞いていたマイアは「ギル様はまるでローラの実のお父様の様ですね」と微笑んだ。
「え!?」
意外な事を言われたとばかりに、ギルは目を丸くする。
「問いながら、自分で答えを出すように導いておられるでしょう?」
そのマイアの言葉に、ギルはハッとした顔になった。
「あ――、ごめん。僕、すぐこういう言い方をするんだ。エマにもよく言われる、回りくどいって」
「そんな事……」
回りくどいのかは分からないけれど、ギルは私に自分で決断するように言ってくれたのだと思う。
「いや、そうなんだよ。うん、ローラハッキリと言うね。アーソイル公爵が君をここに連れてきた真意を聞いて欲しい。たぶん、公爵はローラに力が現れたことに気づいている、それがどうしてかを知りたい」
ギルは、優しい瞳に力を込める。
その事なら私も知りたい。
彼らに聞きたい事、知りたい事、言いたい事は幾つもある。
「私も知りたいです。加護なしだから、瞳の色が違うからと虐げ捨てておきながら、今度は攫うようにここへと連れて来た理由を、その真意を私は知る必要があります。知ったうえで、今度は……私から彼らと決別をします。――私は、ジェイドの許へ帰るから」
決心を胸にギルとマイアを見る。
ギルは大きく頷き、マイアは「大人になって……」と、目に涙を浮かべた。
「じゃあ、僕は姿を消すね。見えなくても、すぐ傍にいるから」
「私もいます」
マイアは、私の手を包み込むように握る。
「ジェイドも彼等と決着をつけたら、すぐにここへ来るよ」
「彼等と決着?」
――彼等って?
「ジェイドは今、エマと一緒にレイズ侯爵の下にいる」
「エマと一緒に?」
「うん。ジェイドは君を守る為、自分自身の為、しがらみから抜け出すと決めたんだ」