まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
「……はい」

 私が離縁を受け入れると夫の母親は「それでいいのよ」と微笑み、また椅子に腰を下ろした。
 優雅な仕種でテーブルに置かれていた冷めたお茶に手を伸ばし、静かに飲み終える。
 空になったカップを見て、思い出したように笑みを浮かべた。

「あなた、ジェイドからお茶をもらったでしょう?」
「はい」

 それは先月、彼が体にいいお茶をもらったと言ってくれたものだろう。

「あれは、ジェイドに頼まれて私が用意した物よ。毎日飲むようにと伝えていたけれど飲んでいる?」
「はい、夕食時に飲んでいます」

 夫の母親はククッと笑う。

「あれは避妊の効果があるお茶なの」
「避妊?」

 だって彼は……。

「間違って子供が出来ない様に。別れを決めたとはいえ男と女が同じ家にいて間違いが起こらないとは限らないでしょう? 二年も出来なかったから必要は無いと思ったけれど万が一、という事もあるものね」

 お義母様の話を聞いていたお義父様はニヤリと笑う。

「男は愛がなくとも女性を抱くことは出来るからな」
「あら、あなたもそうだと言っているみたいね?」

 彼の両親は互いに探るような視線を交わした後、話は済んだと椅子を立った。

「今からひと月後にジェイドの働く公爵邸で夜会が開かれる事は知っている?」
「はい」
「その日はあの子の帰りも遅いわ。あなたはその日に、ここを出てお行きなさい」
「出て……」

 ひと月後に出て行けと言われても、私は結婚を期にアーソイル公爵家から完全に切り捨てられている。
 一人外に出ても、どうしていいか分からない。

「もちろん、あなたに行くところがない事は知っています。私達も息子の妻であった人をそのまま放りだすような非情なことはしません。行き先はこちらで用意します」
「行き先?」

 頷いたお義母様は言葉を柔らかくした。

「それまでにあなたは支度をしておきなさい。それから、出ていく日をジェイドには悟らせないようにしなさい。あの子が知れば引き止めようとするでしょう」

「え……?」
 引き止める? どうして……?

「ジェイドはね、もうあなたの事は愛していないけれど『可哀想』だと思っているの」

 可哀想……?
 ――それは同情? 憐れんでいるという事?

 お義母様は私の考えが分かったのかゆっくりと頷いた。

「夜会はひと月後、それまでにあなたの物は全て処分しておいて。それからジェイドが贈ったものは置いて行って。その結婚指輪もネックレスもよ」

「はい……」
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