まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 誕生日の朝、いつものようにサムス公爵邸に向かった俺はステラを預け、そこから転移魔法でレイズ侯爵邸に向かった。

 高い樹木に覆われているレイズ侯爵邸の周りには先祖たちが作り残した石像が置いてある。
 その目に入れば、地中に埋まる罠が侵入者を捕らえる仕組みだ。

 魔法使いとして名を馳せていた頃は、屋敷の中にたくさんの宝があったらしく、それを狙う者から家族を守るために作られたのだと聞いている。

「あら、懐かしいわ」

 一緒に来たエマが石像を見て顔を綻ばせる。

 これを作ったのはエマの息子で、ギルが一緒に考えたのだという。

 懐かしい思い出を語ったエマは、杖を振り鍵のかかった玄関扉を開く。
 音もたてず開いた扉から入り、誰もいない廊下を静かに進んでいく。すると、居間から話し声が聞こえてきた。

「ジェイド、ちょっと覗いてみましょう」

 エマは声を潜め、水晶玉をその場に出すとそれに部屋の中を映し出した。

 部屋の奥にあるひじ掛け付きの華美な一人掛けソファーに、父が体を投げる様に座っている。その左隣にある華美な長椅子には母が座り、お茶を飲んでいる。
 母の向かいには従姉妹のクリスタが座り、父から長いテーブルを挟んだ位置に、兄フェリクスが座っていた。
 部屋の入口に近い場所に置いてあるソファーには、兄の妻メアリ姉さんが息子エイダンを抱き座っている。

 両親と兄、クリスタの四人が囲む白い石のテーブルの上には、大きな袋が口の開いた状態で置いてあり、そこから数枚の金貨がこぼれ落ちていた。

「石が変わった?」
「そうよ」

 嬉しそうに笑っている母は、ローラに加護の力が現れ、それを知った訳を兄に話していた。
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