まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 両親がローラに加護の力が現れたことを知ったのは、クリスタと俺が修道院へ向かった翌日の朝だという。
(俺の魔力が解放された日、ギルが元の姿に戻った日か……)

 離縁を決めたローラが残していった緑色の石。それは誰の目にも価値はないと分かる物だった。ところがその朝、石はこれまでとは違う輝きを放ちだした。

 母は、すぐに宝石商の下を訪れ石を鑑定してもらった。
 すると、宝石商は最高級のものだと興奮したように話し、ぜひ買い取らせて欲しいと見たことのない金額を提示したのだという。

「魔力持ちは勘が鋭いのよ、だからすぐに分かったの」

 これを持っていたのは、ジェイドが望んだため仕方なく結婚を許した加護なしの女。
 だがその血は紛れもない土の精霊の加護を持つアーソイル。

 あの子が持っていた石が変化を遂げた。

 平凡な石はまるで生まれ変わったように最高級な物となった。
 アーソイル公爵の加護の力は『生み出す力』といわれている。
 加護の力は幼い頃に現れるというが、それに例外があったとすれば?

 公爵家で一人違う瞳の色を持ったあの子は、これまでと違うのではないのだろうか?

 あの子の力は、大人になり現れるものだった。
 その力が、これまでの加護の力と違うものならば……。

「あの時は離縁を告げてしまった事を後悔したわ」

 話をしながら目の前にある金貨を一枚手に取った母は、フッと何かを思い出したように笑った。

(あの日、水晶玉で見た両親は、罪悪感に苛まれていたのではなく、力を知り喜んでいたのか……?)

 両親は、俺がローラを連れて帰ってくることを願いつつ、現れている力を確認するための石を用意したという。
 予めその石の価値を調べておいた両親は、帰ってきたローラにその石を渡し、後日交換した。
 渡しておいた石を調べると、思っていた通りまたも最高級のものと変わったのだ。

「それで確信したの。あの子の力は『生まれ変わらせる力』だとね」

 力に気づいた自分を褒め、母は自慢げに笑う。
 ひとしきり笑うと、金貨を見つめながら呟くように話し始めた。

「それにしても、素直で従順で愚かな女だったわ」

 虐げるような話し方に、兄は眉を顰める。

「愚か?」

「あら、だってそうでしょう? あの子、私達の言う事は何でも素直に聞いたのよ? 離縁を言い渡せばそれに従い、泣いたふりをして謝ればすぐに許す。優しい言葉をかけられれば素直に喜んで……。親に捨てられ周りから虐げられて育ったせいで『親』の愛情に飢えていたのね。嘘を吐いて石を取り替えても疑いもしなかった」

 話の内容に兄は驚き声を上げた。

「あなた方はローラさんを騙していたのですか?!」

「あら、騙したなんてそんないい方しないで。離縁は子が出来なかったから告げた事、それはよくある事でしょう?
泣いたふりはしたけれど謝ったのは事実だし、優しい言葉もかけたわ。ただ私達があの子の力に気づいている事を伝えなかっただけよ」

 両親が次に交換するための石を準備していた時、アーソイル公爵が訪れた。
 アーソイル公爵は何らかの理由でローラに力が現れた事を知っていたのだという。

「加護の力を持ったあの子をアーソイル公爵家へ返すようにと言われたの。もちろんただでは返せないと伝えたわ、やっとレイズ侯爵家の役に立つようになったのだから。それにあの子はジェイドと離れないと言うだろうとも伝えたわ。そうしたら、アーソイル公爵はすでに方法は考えてあると言ったの」

 アーソイル公爵は自分の名を語らずに、ジェイドの友人であるサムス公爵の名を語り家から出し、屋敷に連れ帰ると話した。
 手紙は用意できているが、蝋印を手にすることは難しかった。公爵家の手紙に蝋印がなければ怪しまれるだろう、と話したアーソイル公爵閣下に、たまたまレイズ侯爵邸にいたクリスタが、自分なら同じものを作り出せると、加護の力を使い蝋印を作って見せた。

「水の加護の力は、こんなことまで出来るのかとアーソイル公爵はすごく驚いていたわね」

 その時の事を思い出したのか、両親とクリスタは声を上げて笑った。
 そんな彼らを見た兄は、唖然としている。

「父上、母上、クリスタ、何を笑っているのですか? そんな事……王族の名を語り蝋印を偽造した?」

 兄は、テーブルの上にある金貨の入った袋に目を向けた。

「まさか……これは……」

 小さく首を横に振り、声を震わせる兄に向け、母はニッコリと笑う。

「これはアーソイル公爵からもらった慰謝料よ」

 兄はすぐにアーソイル公爵へ金貨を返し、全てをジェイドとローラさんに話すべきだと声を大きくした。

 深く椅子に腰かけている父は面白くなさそうな顔で兄を見据える。

 持っていた金貨を袋に戻した母は、自身の指輪を撫でだした。

「フェリクス、もう遅いわ。あの子はアーソイル公爵邸に着いている頃よ」

 指輪についた緑色の石を撫でながら、母は笑みを浮かべた。

「これでいいのよ。……あの子ではレイズ侯爵家の子供は望めないもの」

「母上……」
 その言葉の本質を見抜いた兄は、膝の上で拳を握った。
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