まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 兄はすぐにエマに頭を下げ、両親の失礼な態度を詫びた。

「親の背を見て子は育つと言うけれど、あなた達兄弟はいい方に育ったのね……。ねぇ、フェリクスと言ったかしら?」
「はい、私はフェリクス・レイズです」
「私はエマ・グレッタ・フューよ。エマと呼んでくれると嬉しいわ」

 笑みを浮かべたエマは、首を傾げ兄に尋ねた。

「フェリクス、あなたはこんな風に言われてもこの人たちと暮らしていくつもり?」

 兄さんは迷うことなく、首を縦にする。

「両親にはこれまで育ててもらった恩があります」
「恩なんて、親が子を育てるのは当然の事よ?」
 いいえ、と言いながら兄は首を横に振った。

「私はフレイ公爵の下で働いています。公爵はいくつもの孤児院を支援しているのです。そこで私は知りました。親に捨てられる子供の多い事を、屋根のある家で不安なく過ごせる事がどんなに素晴らしい事か。
両親は、魔力を持たなかった私達を見捨てず育て、教養も与えてくれました。言葉に棘はありますが、直接体罰を与えられた事もありません。
いろいろと思う事はあります。けれど、両親も同じ思いをしてきたのかも知れません。
私にできる事は、代々続くレイズ侯爵の名を残していく事、この先年老いていく両親を支える事なのです」

「あなた……」

 エマは何と言ってよいか分からず言葉を詰まらせている。
 ところが、両親はさも当然のごとく口を挿んだ。

「そんな事は、長男として当然の事だ!」
「そうよフェリクス、私達に恩を返すというのなら、魔力を開放してもらいなさい。魔力を持つ事こそ私達の為になるわ」

 つい今しがた聞いた息子の思いなど、どうでもいいかのような二人の言葉を聞いたエマは呆れ果て深いため息を吐いた。
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