まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
「フェリクス、あの二人はあなたの気持ちなど分かっていないわ」

 その意見には俺も同感だ。
 兄は優しすぎる、幼い頃からそうだった。いつも俺を庇い、嫌な事は引き受けてくれていた。

「兄さんは本当にそれでいいのですか?」

 俺の言葉に、両親は声を荒げる。

「ジェイドお前は口を出すな!」

 叱責する声に嫌気が差し、俺は顔を顰めた。
 そんな俺を見て、兄さんは穏やかな笑みを浮かべる。

「ジェイド、私はレイズ侯爵を継ぐと決めている。愛する妻と息子を守り、この家で暮らしていく。私を心配してくれているのだろうが、大丈夫。お前が思っているより私の心は強いよ。私達の事は心配せず、お前はローラさんを守り幸せに暮らす事だけを考えればいい」

「しかし……」

 それはフェリクス兄さんの考えだ。メアリ姉さんは違うのではないか?
 姉さんに目を向けると、メアリ姉さんは両親の声に怯えているエイダンの背中を優しく撫でていた。

「ジェイドさん、私達は大丈夫です。こんな風に言われるのはいつもの事なの」
「……メアリ姉さん、エイダン……」

 俺の声を兄と間違えたのか、名前を呼ばれたエイダンが顔を上げた。
 ふわふわとした栗色の髪に、大きな黄金の瞳。赤く染まったぷっくりとした頬。
 その顔は、兄さんによく似ている。

「エイダン、大丈夫?」

 優しい母親の声に、エイダンは満面の笑みを浮かべた。

「まぁ! なんて可愛いの! 可愛い、ギルにそっくり!」

 エマは可愛いエイダンに思わず駆け寄る。
(確かにギルにも似てるけど……)

 エマが目を細め何度もかわいいと声を上げると、エイダンは恥ずかしそうに笑った。

「私達の顔を見ようともせんそんな子供の、何が可愛いものか」
「瞳がその色ではね」

 冷ややかな目を向け話す両親に、笑っていたエイダンは途端に表情を変え泣き顔になった。

 まだ幼い孫に怒ったような顔を見せ、あんな言い方をすれば、怯えてしまうと思わないのか。
 瞳の色は違っても、エイダンは紛れもなく兄の子供。レイズ侯爵の血を受け継いでいるというのに。

「兄さん、俺には無理だ」

「ジェイド?」
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