まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 両親がアーソイル公爵と手を結び、再び俺からローラを奪おうとしていることを知った日。

 これ以上両親の行いを許しておくことは出来ないと思った。

 ――だが、俺はどうしたいのだろう。
 両親を捕らえ罰を与えたいのか?
 魔力を持った今の俺ならどんなことだってできる。

 だが俺は両親を傷つけたいわけじゃない。(そんな事をすればローラに嫌われてしまう)
 けれど、このままにしておくことは出来ない。
 それでは両親の考えは変わる事なく、俺もまた何も変われない気がする。

 どうするかと思案していた時、曽祖父ダミアン・レイズがギルに放った動物に変化する魔法を思い出した。

『犬の暮らしは大変だったけど、いろいろ知る事もあった』とギルは話してくれた。

 しばらくの間、両親にも変わってもらおう、姿が変われば見え方も変わるだろう、そう思った。

 だが、俺はその魔法を使う事が出来なかった。
 その為エマに来てもらったんだが……。
(ギルには、自分が犬だった頃を思い出すから嫌だと断られた)

 犬になった二人は俺が決めたと言った途端、俺に向け吠え始めた。
 何と言っているのか分からないが、かなり怒っているようだ。
 キャンキャンという高い鳴き声は……すごく耳障りだ。

「父上、母上、しばらくこれをつけさせてもらいます」

 俺は二人の口を手のひらで包み込み呪文を唱えた。
 手の中が一瞬光り、二人の口に茶色い口輪がつく。

「ジェイド……お前、魔法を……」

 兄さんは魔法を使った俺を見て驚いている。

「兄さん、言いませんでしたが俺の魔力の封印は解かれています。このように魔法を使う事が出来ますが、変化の魔法は難しく、エマにお願いしました」

 俺の魔力は解放されている、と言った途端、両親は嬉しそうに尻尾を振りながら足に纏わりつき出した。

「はぁ……魔力があると知った途端、俺の御機嫌取りですか。姿が変わってもそう簡単に改心はしないようですね」

「わんわん!」

 エイダンは犬となった両親に触れたくてたまらないのか、メアリ姉さんの腕の中から抜け出そうと必死だ。
 その様子にエマはクスクスと笑う。

「フェリクス、実はジェイドの封印を解いたのは私ではないの。残念だけれどあなた達にかかっている魔力の封印は、私にはもう解くことは出来ない。封印は掛けた者にしか解くことが出来ず、それが受け継がれる封印であれば、最初の封印を解かなければ永遠に解けることはない、という理は知っている?」
「はい、魔法書で学びました」

 兄の返事に、エマは微笑み頷いた。

「私はダミアン・レイズに子孫まで受け継がれる封印の魔法をかけたの。けれどダミアンはもうこの世にいない、だから私には解くことが出来ないの」
「俺の魔力を開放してくれたのはローラです。彼女が俺に力をくれた」
「ローラさんが?」

 兄さんはまだローラに会ったことはない。
 一度だけこの屋敷に連れてきた事があるが、その時は会う事が出来なかった。


「俺は今からローラを迎えに行きます。兄さん、本当に二人を任せても構いませんか?」

「もちろん。ジェイドさっきも言った通り、私はこの家を継いでいく。両親の事も私に任せて欲しい。それに、この姿の両親なら……可愛いものだよ」

 兄さんはしゃがんで、犬になった両親の頭を撫でた。
「わんわん」
 姉さんの腕から抜け出たエイダンは両親の下に行き兄さんと一緒にその頭を撫でる。

 二匹は尻尾を下げたままその手に目を向けている。
 その様子を見たエマはニッコリと笑った。

「あら、よかったわね。あなた達は可愛いと言ってあげなかったけれど、エイダンはあなた達を可愛がってくれるみたいよ」
「かわいーね。ちーち、はーは」
「あら、名前まで呼んでもらえるなんて羨ましいわ」

 私の名前も呼んでくれない? とエマはエイダンに話している。
 両親への用件は済んだ。
 急いでローラの下へ行きたい俺は、いつまでもエイダンから離れようとしないエマの腕を取り杖を掲げさせる。

「兄さん、また後で様子を見に来ます」
「エイダン、また来るわね!」
「はーい」

 杖を振ろうとしたエマは周りを見回し、ハッと目を見開いた。

「あら、すっかりアクアトスを忘れていたわ!」

 完全に彼女の存在を忘れていたエマは、面倒だから一緒に連れて行くと言うとクリスタの体を引き寄せる。

「また来るわね!」

 兄達に明るく声を掛けたエマが杖を振り下ろし、俺達はローラの下へと転移した。
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