まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
 ――それは、今からひと月ほど前に遡る。
 公爵邸の庭を管理する使用人の報告がきっかけだった。
 離れの裏庭に異変が起きている。時期が違うというのに突然実りはじめたオレンジ。花は咲き乱れ、菜園に植えられている香草が勢いよく葉を茂らせだした。
 その現象は、アーソイル公爵の持つ土の加護の力を与えた時に起きるものと酷似していた。しかしながら、いくらアーソイル公爵であってもどうでもいい離れの裏庭のような場所に加護の力を使う事はしない。子息たちにも尋ねたがそんな所へは行った事もないという。

 離れは加護なしである四女を住まわせていた所。確か、時折使用人の様に裏にはに出ていたと報告を受けていた事を公爵は思い出し、まさか……と考えていた。

 するとさらに翌日、幼い加護なしを放棄し置いていた古い別荘を管理する者から連絡があった。別荘の周りに異変が起きている。咲くはずのない花が咲き、畑には次から次へと実が生っている。近くにある濁った湖に、澄んだ水が湧きだした。

 その話に、公爵の疑念は確信へと変わり始める。
 なぜならそれらの場所は加護なしである四女が手を入れていた所ばかりだったから。
(加護なしが住んでいた場所に異変が起きた……それは……)

 アーソイル公爵は四女に、加護の力が現れたのではないかと考えた。
 そこで、結婚を期に縁を切った四女の暮らす屋敷の周りを調べさせた。しかしそこに大きな異変は見られない。家を訪れる者も殆どなければ、四女の姿を見る事も殆どない。
 ――だが、唯一家に出入りしていたレイズ侯爵夫妻の行動に、不審な点がみられた。
 レイズ侯爵夫妻は、四女の暮らす家へと赴き、家を出るとその足で宝石商の下へ通い品物を売っている。

 その売っていた物を調べたアーソイル公爵は、そこに自分と同じ土の加護の力を感じ、疑心を確信へと変えた。
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