まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
23家族の形
――嬉しい?
あなたと? 名ばかりの『家族』と暮らせることを?
この邸で暮らせることを?
――なぜ当然のように、そんな事が言えるの?
アーソイル公爵邸の人々が私の家族?
生まれてすぐ乳母に任せきりにして。その上、加護なしと分かった途端、誰もいない別荘に置き去りにしておきながら。
あの時の私の気持ちは、目の前のこの人には想像もつかないはずだ。
一人でいる事はどれだけ不安か。空腹が、暗闇がどんなに恐ろしいものか。
誰にも愛されない事が生きる希望を失わせる事も、この人には分からない。
「……私の」
――悔しくてたまらない。
何も知らないくせに。私を愛してくれるジェイドの事を悪く言って……。
たくさん言いたいことがあるのに、上手く言葉に出来ず、私はぐっと奥歯を噛みしめ深紅の瞳を睨みつけた。
悔しさと怒りから、目に涙が込み上げてくる。それを私は堪え切れず、泣きたくないのにボロボロと涙を溢し泣いてしまっていた。
「……なぜ泣く?」
公爵は、私が喜び笑みを浮かべるとでも思っていたのだろうか?
泣く理由が分からないと、首を傾げる。
――言わなければ。
言葉にしなければ、この人には伝わることはない。
私の気持ち、思いは……。
「……私の家族は、あなたではありません。今もこれからも、家族と呼ぶのはジェイドだけ。彼が……私の家族。あなた方のような一度しか会った事のない、遠くからしか見た事のない人たちを……家族だなんて思えない。ここで、一緒に暮らす事を……嬉しいなんて思う訳がないわ!」
涙で声を詰まらせながら、私は自分の思いを告げた。
渾身の思いで伝えたけれど、公爵は特に表情を変える事なく私を冷たく見据えている。
「あの男が家族? 教養は与えるべきだったか……知らぬとは愚かな事だ。いいか? あれは他人だ。家族とは血の繋がり、お前にとってはこのアーソイルという高貴な血を持つ我々こそが家族といえる」
怖いほどの深紅の目が私を見下ろしてくる。
この場から逃げ出してしまいたい。
思わずギルの名を呼びそうになったけれど、それではいけないと、私はぐっと手に力を込めた。
「違う、違う……。たとえ血の繋がりがあっても、一緒に暮らした事のないあなたたちなんて家族じゃない……」
家族ではないと言われた事が気に入らなかったのか、公爵は眉を上げる。
「一緒に暮らす? 暮らせば家族だと? ならばそこにいる乳母は? しばらく一緒に暮らしていたその女はお前の家族だとでも?」
「マイアは……あなた達よりずっと私の傍にいてくれた。大切な家族だわ」
家族とは、必ずしも血の繋がりだけじゃない。
愛し合った二人が一緒になる事も、いろいろな事情で一緒に暮らしていく形も、家族だと思う。
一緒にいても離れていても、相手の事を考え、愛する関係が私の思う家族の形だ。
「ほお、ただお前を憐れみながら身の回りの世話をしただけの者が? 側にいれば家族だと?」
「違うわ、マイアは」
「それは金の為にお前の世話をしていたのだ。お前を失えば職を失うと思い面倒を見ただけだ」
公爵は頭を下げたまま体を震わせているマイアを一瞥する。
「そんな事ないわ。だって、あなたたちがマイアに私へ愛情をかけるなと命令したのでしょう? 彼女はそれに従うしかなかったのよ」
反論する私の言葉を聞いたアーソイル公爵は含み笑いを浮かべた。
「命令に従う? それこそ金で動いているという事ではないか。その者はお前を愛しているわけではない」
公爵は一歩前に足を進め私に近づいた。
「違うわ! マイアはいつだって、私を思ってくれていたもの」
――私は覚えている。
私の名前を呼んでくれた時の優しい声。
髪を結ってくれた優しい手、別れの時抱き止めてくれたあの時のせつなげな表情。
言葉で伝えられなくとも、向けられている愛情は感じられた。
今、私を見つめる公爵の目とは違う。マイアはいつだって優しい眼差しをくれていた。
唇を噛みしめ、悔しい気持ちを隠すことなく公爵を見つめた。
あなたと? 名ばかりの『家族』と暮らせることを?
この邸で暮らせることを?
――なぜ当然のように、そんな事が言えるの?
アーソイル公爵邸の人々が私の家族?
生まれてすぐ乳母に任せきりにして。その上、加護なしと分かった途端、誰もいない別荘に置き去りにしておきながら。
あの時の私の気持ちは、目の前のこの人には想像もつかないはずだ。
一人でいる事はどれだけ不安か。空腹が、暗闇がどんなに恐ろしいものか。
誰にも愛されない事が生きる希望を失わせる事も、この人には分からない。
「……私の」
――悔しくてたまらない。
何も知らないくせに。私を愛してくれるジェイドの事を悪く言って……。
たくさん言いたいことがあるのに、上手く言葉に出来ず、私はぐっと奥歯を噛みしめ深紅の瞳を睨みつけた。
悔しさと怒りから、目に涙が込み上げてくる。それを私は堪え切れず、泣きたくないのにボロボロと涙を溢し泣いてしまっていた。
「……なぜ泣く?」
公爵は、私が喜び笑みを浮かべるとでも思っていたのだろうか?
泣く理由が分からないと、首を傾げる。
――言わなければ。
言葉にしなければ、この人には伝わることはない。
私の気持ち、思いは……。
「……私の家族は、あなたではありません。今もこれからも、家族と呼ぶのはジェイドだけ。彼が……私の家族。あなた方のような一度しか会った事のない、遠くからしか見た事のない人たちを……家族だなんて思えない。ここで、一緒に暮らす事を……嬉しいなんて思う訳がないわ!」
涙で声を詰まらせながら、私は自分の思いを告げた。
渾身の思いで伝えたけれど、公爵は特に表情を変える事なく私を冷たく見据えている。
「あの男が家族? 教養は与えるべきだったか……知らぬとは愚かな事だ。いいか? あれは他人だ。家族とは血の繋がり、お前にとってはこのアーソイルという高貴な血を持つ我々こそが家族といえる」
怖いほどの深紅の目が私を見下ろしてくる。
この場から逃げ出してしまいたい。
思わずギルの名を呼びそうになったけれど、それではいけないと、私はぐっと手に力を込めた。
「違う、違う……。たとえ血の繋がりがあっても、一緒に暮らした事のないあなたたちなんて家族じゃない……」
家族ではないと言われた事が気に入らなかったのか、公爵は眉を上げる。
「一緒に暮らす? 暮らせば家族だと? ならばそこにいる乳母は? しばらく一緒に暮らしていたその女はお前の家族だとでも?」
「マイアは……あなた達よりずっと私の傍にいてくれた。大切な家族だわ」
家族とは、必ずしも血の繋がりだけじゃない。
愛し合った二人が一緒になる事も、いろいろな事情で一緒に暮らしていく形も、家族だと思う。
一緒にいても離れていても、相手の事を考え、愛する関係が私の思う家族の形だ。
「ほお、ただお前を憐れみながら身の回りの世話をしただけの者が? 側にいれば家族だと?」
「違うわ、マイアは」
「それは金の為にお前の世話をしていたのだ。お前を失えば職を失うと思い面倒を見ただけだ」
公爵は頭を下げたまま体を震わせているマイアを一瞥する。
「そんな事ないわ。だって、あなたたちがマイアに私へ愛情をかけるなと命令したのでしょう? 彼女はそれに従うしかなかったのよ」
反論する私の言葉を聞いたアーソイル公爵は含み笑いを浮かべた。
「命令に従う? それこそ金で動いているという事ではないか。その者はお前を愛しているわけではない」
公爵は一歩前に足を進め私に近づいた。
「違うわ! マイアはいつだって、私を思ってくれていたもの」
――私は覚えている。
私の名前を呼んでくれた時の優しい声。
髪を結ってくれた優しい手、別れの時抱き止めてくれたあの時のせつなげな表情。
言葉で伝えられなくとも、向けられている愛情は感じられた。
今、私を見つめる公爵の目とは違う。マイアはいつだって優しい眼差しをくれていた。
唇を噛みしめ、悔しい気持ちを隠すことなく公爵を見つめた。