まだあなたを愛してる〜離縁を望まれ家を出たはずなのに追いかけてきた夫がめちゃめちゃ溺愛してきます〜
「魔力を蘇らせた……願う事で叶えられる力」
「あら、なに? 急にそんな嬉しそうな顔になって……」
公爵とは対照的に、エマは眉を顰める。
「魔力を蘇らせる事ができるのならば、私の力も……土の加護の力を蘇らせることも出来るのか? 財を成す力でなく本来の操る力に……願えば出来るということか?」
その言葉にエマは目を丸くした。
私も、ジェイドもギルも同じように驚きを隠せない。
「あなた、当主でしょう? なぜ加護の力が変わったのか、その理由を聞いていないの?」
本来の土の加護の力は操る事が難しい。それゆえ過去に嘆かわしい事故が起きている。
その時から変わった力の理由は、いくら長い時が経ったとはいえ再び過ちを犯さぬために当主には正しく伝えているはずだと、エマは顔を顰め言う。
「他の公爵達を凌駕するほどの強大な力だったとだけ聞いている。それゆえ力は変えられてしまい、今の力になったと」
「え? まさかそれだけなの?」
アーソイル公爵は、聞き返すエマの言葉には耳を傾ける事なく、私を見つめ笑みを浮かべた。
「本来の加護の力を……眠っている力を蘇らせてくれるというのなら、私は金輪際お前に関わらないと約束する」
これまでと違い、子供に語り掛ける様に柔らかい話し方をした公爵の深紅の瞳は、優しい色を成していた。
「何でもお前のいう通りにしよう」
「……何でも?」
「ああ」
公爵は優しく言葉を返す。
「では、サムス公爵様の名を使った手紙の罪を償えますか?」
そういう事を言われるとは思っていなかったのか、公爵は驚いた顔になった。
何でもいう通りにすると言われても、何を言えばいいのか分からない。
咄嗟に思いついたのは、ここへ私を連れ戻す為に王族の名を使い、蝋印を押した手紙の事だった。
自分達こそがこの国を支配する者、王族よりも優れた立場にあると考える彼らにとって、犯した罪を認め、償いを受ける事は耐えられない事のはず。
それを了承してまで力を欲しいというとは思えない。
――さすがにプライドが許さないだろう、私はそう考えていた。
――だが。
「もちろんだ、きちんと償う事を約束する。それに、蝋印を偽造したのはそこにいるアクアトスの令嬢だという事も証言もしよう」
アーソイル公爵は、動くことも言葉を発する事もないクリスタ様に目を向けた。
突然の裏切りの言葉にクリスタ様は憎悪に目を光らせる。その瞬間、パキンッ!と高い音がした。
エマが「えっ⁈」と驚きの声をあげる。
「エマの魔法が……解かれた……」
ジェイドも目を丸くしている。
どうやらクリスタ様はエマに魔法をかけられていた様だ。それを彼女は自身の力で解いたらしい。
でも、どうして? クリスタ様はエマに魔法をかけられたの? そもそも何故ここへ連れて来たのだろう?
疑問に思っている間に、クリスタ様はアーソイル公爵の下へ行き、鼻先に向け指を差した。
「アーソイル公爵、ふざけたことを言わないで! 私は力を貸してあげただけよ! その言い方では私が罪を犯したみたいに聞こえるわ!」
「蝋印を作ったのはお前だ。自分に靡かないその男を手に入れる為にした事ではないのか?」
「な、なんですって?」
公爵から言われた言葉に、顔を赤くしたクリスタ様は手のひらの上に水の塊を現した。
「何だ? お前……まさか私に何かするつもりか?」
不穏な動きを警戒し、護衛騎士達は公爵の前に立ちはだかるとクリスタ様に剣先を向ける。
「煩い! 何も出来ないアーソイルの分際でっ! この私に失礼な言葉を言うなんて! その上アクアトス公爵の娘である私に剣を向けるなんてあり得ない事だわ!」
クリスタ様の手のひらの水が針のような形へと変化し、護衛騎士達とアーソイル公爵に狙いをすませた。
「そんな物で私に傷を負わせるつもりでいるのか」
「あら? 水の加護の力の事を何も知らないの? まぁいいわ、どうせ今からいなくなるのだから、教える必要もないわ」
加護の力を持つ公爵達はその力を操り、人々を守り、国を豊かにする。その一方で、力を使い多くの人の命を奪う事もある。それは国を守る為行われる行為。罪に問われることはない。
けれど、彼らは自身の為に人を殺める事もある。
火、風、水の精霊の加護は、土の精霊の加護とは違う。人を殺めようとも力を失うことはない。
だから……クリスタ様は命を奪う事を躊躇わないのだろうか?
「私に刃を向けるという事がどういう事か、その身をもって知るといいわ!」
クリスタ様が作り上げた水の針が凍りはじめ氷の刃と変わった。
紫紺の瞳を輝かせ、スッと頭上に手を掲げる。その手が振り下ろされる瞬間、私は優しく抱いてくれていたジェイドの腕を押し退けて、クリスタ様のもう一方の腕を掴んだ。
「クリスタ様ダメ! お願いです! 力で人を傷つけないで! 命を奪わないで!」
「なっ?!」
クリスタ様の紫紺の瞳は大きく見開かれる。
「加護の力をそんな風に使わないで……」
精霊の加護は選ばれた者だけが持てる力。
だからと言って加護持ちが命をもてあそんではいけない。
(命をもてあそぶ様な力は無くなってしまえばいい)
私はそう思いながら、クリスタ様を見つめた。
「私の力をどう使おうとお前には関係ない! 邪魔をするな!」
クリスタ様は掴まれていた手を払い、私の額に指を突き付けた。
「止めろ、クリスタ!」
ジェイドは杖をクリスタ様に向ける。
だがクリスタ様の指は既に私の額に付いている。このまま力を使われたなら私は命を失うだろう。
――私はギュッと目を瞑った。
「…………」
何も起きない。
それだけじゃなく、なぜかクリスタ様の指先は震えている。
恐る恐る目を開くと、首を横に振るクリスタ様の姿があった。
どうしたのだろう?
ジェイドが魔法を使って彼女の力を止めたの?
クリスタ様は私に目を向けたまま後退り、指していた指をもう片方の手で握りしめた。
彼女の美しい紫紺の瞳は、だんだんと色を変えはじめ、灰のような色へと変わってしまった。
アクアトス公爵の水の加護を持つ者の証と云われる紫紺の瞳が失われた、それは…………。
「どうして……力が……使えない……」
灰色の瞳となったクリスタ様は声を震わせその場に崩れ落ちた。
「クリスタ、お前は加護の力を失ったんだよ」
ジェイドは私を後ろから抱きながら、クリスタ様に瞳の色が変わったと事実を告げた。
「瞳が灰色……? 私は加護の力を失ったというの?」
「力で人を傷つけないで欲しいとローラに願われただろう?」
「……あの一言で? この女は私の力を奪ったと?」
そんなことは信じられないと、クリスタ様は首を横に振り、何度も指先に力を込めはじめた。
「どうして! 私の命令よ、精霊たち現れなさい!」
クリスタ様が声を荒げてもこれまでの様に周りを取り巻く青い光は現れず、何の変化も起きることがない。
「嘘……嘘よ。嫌……」
力を失ったクリスタ様は両手を床につけ項垂れた。
その様子を見ていたアーソイル公爵は顔を綻ばせ「すばらしい……」と呟く。
「その娘を捕らえよ」
護衛騎士達にクリスタ様を捕らえる様に命令を下した公爵は、私の前に立ち目を細め両手を差し出した。
「私に……本来の土の加護を与えてくれ」
そう言うと、公爵は頭を下げた。
それほど切望していたの?
誰もが欲しがる財を成す力を持っているのに。ほかの公爵達の様に操る力を欲しいというの?
「私が……」
「ローラ?」
「私があなたの頼みを聞いたなら……今後私に関わらないと約束してください」
「ローラ、まさか願いを叶えるつもりなのか?」
驚いているジェイドに向け、私は小さく頷いた。
アーソイル公爵はあまりにも容易な事と思ったのかフッと笑みを浮かべている。
「それから……乳母を、マイアの事も自由にしてもらいます。そうして私達に、ジェイドにこれまでの謝罪をして下さい」
「ローラ……」
私はジェイドの腕の中から出て、公爵の前に立った。
「ああ、何だってする。力を蘇らせてくれるのなら、何度だって謝罪しよう」
公爵が力を欲する為に発したその声は、これまで聞いた中で一番優しい声だった。
「ただし……アーソイル公爵閣下。私の力は完全とは言い切れません。願っても叶わないかもしれない。それでも今交わした約束を叶えると、ここで誓ってください」
公爵閣下は少し戸惑いを見せたが、分かったと呟いた。
――私に現れた土の加護の力は、アーソイルの為に使えと言われた。
だから使う、彼らと別れる為に、この一度だけ。
これで私に関わらないと公爵は約束をしたから。
「ローラ」
ジェイドは私の腕を掴み、ダメだと首を横に振る。
「お願い、ジェイド。彼らと別れる為、私が出来る事をやりたいの。これが最初で最後だから」
「あら、なに? 急にそんな嬉しそうな顔になって……」
公爵とは対照的に、エマは眉を顰める。
「魔力を蘇らせる事ができるのならば、私の力も……土の加護の力を蘇らせることも出来るのか? 財を成す力でなく本来の操る力に……願えば出来るということか?」
その言葉にエマは目を丸くした。
私も、ジェイドもギルも同じように驚きを隠せない。
「あなた、当主でしょう? なぜ加護の力が変わったのか、その理由を聞いていないの?」
本来の土の加護の力は操る事が難しい。それゆえ過去に嘆かわしい事故が起きている。
その時から変わった力の理由は、いくら長い時が経ったとはいえ再び過ちを犯さぬために当主には正しく伝えているはずだと、エマは顔を顰め言う。
「他の公爵達を凌駕するほどの強大な力だったとだけ聞いている。それゆえ力は変えられてしまい、今の力になったと」
「え? まさかそれだけなの?」
アーソイル公爵は、聞き返すエマの言葉には耳を傾ける事なく、私を見つめ笑みを浮かべた。
「本来の加護の力を……眠っている力を蘇らせてくれるというのなら、私は金輪際お前に関わらないと約束する」
これまでと違い、子供に語り掛ける様に柔らかい話し方をした公爵の深紅の瞳は、優しい色を成していた。
「何でもお前のいう通りにしよう」
「……何でも?」
「ああ」
公爵は優しく言葉を返す。
「では、サムス公爵様の名を使った手紙の罪を償えますか?」
そういう事を言われるとは思っていなかったのか、公爵は驚いた顔になった。
何でもいう通りにすると言われても、何を言えばいいのか分からない。
咄嗟に思いついたのは、ここへ私を連れ戻す為に王族の名を使い、蝋印を押した手紙の事だった。
自分達こそがこの国を支配する者、王族よりも優れた立場にあると考える彼らにとって、犯した罪を認め、償いを受ける事は耐えられない事のはず。
それを了承してまで力を欲しいというとは思えない。
――さすがにプライドが許さないだろう、私はそう考えていた。
――だが。
「もちろんだ、きちんと償う事を約束する。それに、蝋印を偽造したのはそこにいるアクアトスの令嬢だという事も証言もしよう」
アーソイル公爵は、動くことも言葉を発する事もないクリスタ様に目を向けた。
突然の裏切りの言葉にクリスタ様は憎悪に目を光らせる。その瞬間、パキンッ!と高い音がした。
エマが「えっ⁈」と驚きの声をあげる。
「エマの魔法が……解かれた……」
ジェイドも目を丸くしている。
どうやらクリスタ様はエマに魔法をかけられていた様だ。それを彼女は自身の力で解いたらしい。
でも、どうして? クリスタ様はエマに魔法をかけられたの? そもそも何故ここへ連れて来たのだろう?
疑問に思っている間に、クリスタ様はアーソイル公爵の下へ行き、鼻先に向け指を差した。
「アーソイル公爵、ふざけたことを言わないで! 私は力を貸してあげただけよ! その言い方では私が罪を犯したみたいに聞こえるわ!」
「蝋印を作ったのはお前だ。自分に靡かないその男を手に入れる為にした事ではないのか?」
「な、なんですって?」
公爵から言われた言葉に、顔を赤くしたクリスタ様は手のひらの上に水の塊を現した。
「何だ? お前……まさか私に何かするつもりか?」
不穏な動きを警戒し、護衛騎士達は公爵の前に立ちはだかるとクリスタ様に剣先を向ける。
「煩い! 何も出来ないアーソイルの分際でっ! この私に失礼な言葉を言うなんて! その上アクアトス公爵の娘である私に剣を向けるなんてあり得ない事だわ!」
クリスタ様の手のひらの水が針のような形へと変化し、護衛騎士達とアーソイル公爵に狙いをすませた。
「そんな物で私に傷を負わせるつもりでいるのか」
「あら? 水の加護の力の事を何も知らないの? まぁいいわ、どうせ今からいなくなるのだから、教える必要もないわ」
加護の力を持つ公爵達はその力を操り、人々を守り、国を豊かにする。その一方で、力を使い多くの人の命を奪う事もある。それは国を守る為行われる行為。罪に問われることはない。
けれど、彼らは自身の為に人を殺める事もある。
火、風、水の精霊の加護は、土の精霊の加護とは違う。人を殺めようとも力を失うことはない。
だから……クリスタ様は命を奪う事を躊躇わないのだろうか?
「私に刃を向けるという事がどういう事か、その身をもって知るといいわ!」
クリスタ様が作り上げた水の針が凍りはじめ氷の刃と変わった。
紫紺の瞳を輝かせ、スッと頭上に手を掲げる。その手が振り下ろされる瞬間、私は優しく抱いてくれていたジェイドの腕を押し退けて、クリスタ様のもう一方の腕を掴んだ。
「クリスタ様ダメ! お願いです! 力で人を傷つけないで! 命を奪わないで!」
「なっ?!」
クリスタ様の紫紺の瞳は大きく見開かれる。
「加護の力をそんな風に使わないで……」
精霊の加護は選ばれた者だけが持てる力。
だからと言って加護持ちが命をもてあそんではいけない。
(命をもてあそぶ様な力は無くなってしまえばいい)
私はそう思いながら、クリスタ様を見つめた。
「私の力をどう使おうとお前には関係ない! 邪魔をするな!」
クリスタ様は掴まれていた手を払い、私の額に指を突き付けた。
「止めろ、クリスタ!」
ジェイドは杖をクリスタ様に向ける。
だがクリスタ様の指は既に私の額に付いている。このまま力を使われたなら私は命を失うだろう。
――私はギュッと目を瞑った。
「…………」
何も起きない。
それだけじゃなく、なぜかクリスタ様の指先は震えている。
恐る恐る目を開くと、首を横に振るクリスタ様の姿があった。
どうしたのだろう?
ジェイドが魔法を使って彼女の力を止めたの?
クリスタ様は私に目を向けたまま後退り、指していた指をもう片方の手で握りしめた。
彼女の美しい紫紺の瞳は、だんだんと色を変えはじめ、灰のような色へと変わってしまった。
アクアトス公爵の水の加護を持つ者の証と云われる紫紺の瞳が失われた、それは…………。
「どうして……力が……使えない……」
灰色の瞳となったクリスタ様は声を震わせその場に崩れ落ちた。
「クリスタ、お前は加護の力を失ったんだよ」
ジェイドは私を後ろから抱きながら、クリスタ様に瞳の色が変わったと事実を告げた。
「瞳が灰色……? 私は加護の力を失ったというの?」
「力で人を傷つけないで欲しいとローラに願われただろう?」
「……あの一言で? この女は私の力を奪ったと?」
そんなことは信じられないと、クリスタ様は首を横に振り、何度も指先に力を込めはじめた。
「どうして! 私の命令よ、精霊たち現れなさい!」
クリスタ様が声を荒げてもこれまでの様に周りを取り巻く青い光は現れず、何の変化も起きることがない。
「嘘……嘘よ。嫌……」
力を失ったクリスタ様は両手を床につけ項垂れた。
その様子を見ていたアーソイル公爵は顔を綻ばせ「すばらしい……」と呟く。
「その娘を捕らえよ」
護衛騎士達にクリスタ様を捕らえる様に命令を下した公爵は、私の前に立ち目を細め両手を差し出した。
「私に……本来の土の加護を与えてくれ」
そう言うと、公爵は頭を下げた。
それほど切望していたの?
誰もが欲しがる財を成す力を持っているのに。ほかの公爵達の様に操る力を欲しいというの?
「私が……」
「ローラ?」
「私があなたの頼みを聞いたなら……今後私に関わらないと約束してください」
「ローラ、まさか願いを叶えるつもりなのか?」
驚いているジェイドに向け、私は小さく頷いた。
アーソイル公爵はあまりにも容易な事と思ったのかフッと笑みを浮かべている。
「それから……乳母を、マイアの事も自由にしてもらいます。そうして私達に、ジェイドにこれまでの謝罪をして下さい」
「ローラ……」
私はジェイドの腕の中から出て、公爵の前に立った。
「ああ、何だってする。力を蘇らせてくれるのなら、何度だって謝罪しよう」
公爵が力を欲する為に発したその声は、これまで聞いた中で一番優しい声だった。
「ただし……アーソイル公爵閣下。私の力は完全とは言い切れません。願っても叶わないかもしれない。それでも今交わした約束を叶えると、ここで誓ってください」
公爵閣下は少し戸惑いを見せたが、分かったと呟いた。
――私に現れた土の加護の力は、アーソイルの為に使えと言われた。
だから使う、彼らと別れる為に、この一度だけ。
これで私に関わらないと公爵は約束をしたから。
「ローラ」
ジェイドは私の腕を掴み、ダメだと首を横に振る。
「お願い、ジェイド。彼らと別れる為、私が出来る事をやりたいの。これが最初で最後だから」