まどろみ3秒前
「ただいまー累!」
笑みを浮かべて言うと、弟は「うん」とお母さんのように、安心の表情を浮かべた。
累。私と同じく一文字な漢字の名前には、親近感が湧く。
累は、生まれつき地毛で茶色い髪だ。私も髪は生まれつき茶色ぽく、よく染めていると勘違いされる。
それでまた噂されて、あの寝坊だのなんだの笑われるのだが。まあ、どうでもいいけど。
私は、家族に笑みを浮かべている。クラスメイトにも友達にも、笑みを浮かべている。
苦しいから、怖いから、どうでもいいから。笑っていれば、なんとかなると思ったからだ。こんな自分を、いつまでも憎く思う。
『すい』と書かれたドアプレートの扉を開けると、整えられた綺麗な部屋が広がっている。
白い絨毯にもほこりや消しカスは見当たらない。お母さんが、気遣って、私がよく眠れるようにと掃除をしてくれているからだろう。
私は、いつも平気なフリをしている。
だが、部屋にある、一つの家具が目に入ると、そのフリというものが解けていく。
それは、私が夜を越すために眠るベッドだった。ウサギのぬいぐるみがベッドにいる。
「今日も、夜が来るのかぁ」
怖いくせに、どこか他人事だった。
雨の降る窓を見てボーッとしていた。