まどろみ3秒前

「朝くん…?えっ…?」


体が動かなかったのは、後ろから、そのまま抱き締められていたからだった。受け止めてくれたが、そのまま抱き締められる。首に腕が回り、僅かに息を感じる。


「ほんとに、翠さんは顔を赤くしない」

「…え、まあ…そーいうの、わかんないんで」


笑みを浮かべて言うが、そーいうの、とはどういうものなのか自分でもわかってなかった。


「…死んでるんですかね、心が」


下を向いた。


「だから、何も感じないんだと思います」


何も考えないようにした。考えれば考えるほど、怖かったから苦しかったから辛かったから、自分が、憎くてたまらなかったから。

逃げるために、何も考えないようにした。本当に、自分が嫌いだ。情けない奴だ。


「ほんと?」

「…ほんとって、なに」


離してくれない。声が近くに聞こえる。
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