まどろみ3秒前

「本当に、死んでんの?心は」


そんなことを問われたのは初めてで「え?」と思わず聞き返してしまった。


「俺に会いたくて、雨の中探してくれてたんでしょ?雨の中、俺の前で泣いてた。そういうの、心に感情があるからだと思うけど」

「…それは、だって」


またぎゅっと抱き締められて、何も言えなくなる。息が出来なくなるくらい、近い。


「心が死んでるわけじゃない。ほんとは、全部どうでもよくないけど、どうでもいいって自分に言い聞かせてるだけ」


なんだか、図星を刺された気持ちになる。私は笑みを浮かべた。


「…そうです。でもまあ、わからないですよね。全部どうでもいいって感情を殺して、追い付けない今から、辛いことから逃げることしかできない、私の気持ちが」

「わかる、痛いくらいに」


彼は即答する。こんなにも、同情というのは腹立たしく感じることなんだと、私は初めて知った。

早く離れてほしくて少し体に力を入れたが、離してくれそうにもなかった。


「…朝くんは、朝が怖い?」

「……朝が?」


耳の近くで囁かれて少しびくりとしたが、そんなのは気にせずに私は話し続ける。


「ほら、怖くないでしょ?てか、待ちきれないくらいでしょ。私は違うんですよ。朝の感じ方が、他の人よりずっと、間違えてる。こんな私を、痛いくらいわかるはずもない」

「…」

「全部どうでもいいって思っちゃうんです。そうやってバカみたいに逃げてないと、生きてけないんで」


勝手に口が喋るといったら嘘になる。思っていたこと、どうでもいいと思って逃げていたこと、ペラペラと喋り出していく。
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