まどろみ3秒前
不思議な夜だった。なんだか、変な感じだ。初めて、夜が怖くなくなった。いや、夜だということを忘れていたのかもしれない。
雨も降っていないが、赤い傘を片手に持つ。前に、私が置いていったものだ。傘が自分の手にあることが、なんだかすごい。
冷たい風が頬を通りすぎていく。
隣には、まるで朝陽のような朝くんがいた。
電灯と電灯の間は暗闇で怖いが、彼が話し続けてくれて、夜の暗さは怖くなかった。
夜の空は、暗い色に染まり星が出ていた。工場ばかりで空気も綺麗じゃないはずなのに。キラキラと光る星に、手を伸ばしてみたくなった。
朝くんと、連絡を交換した。言い出したのは私で、快く朝くんは了解してくれた。
だが、ふたりとも機会音痴というやつで混乱していた。連絡を交換するやり方すらもよくわかってない。まず、私が連絡先を交換するというのがあまり経験がないから。
「えなにこれ」
「あ、そこ押してみたらいいんじゃ」
「おーいけた!いけた!」
こんなやり取りも、まるで夢みたいだ。
嘘もなく笑みも浮かべず、私は、心から素直に笑えている。
おかしい、ほんとに、おかしい。
何も面白くないところかもしれない。何気もない会話かもしれないし、言葉かもしれない。
でも、私は、笑えた。心から、笑えた。
死んでいたと思っていた心は、もしかしたら息を吹き替えし始めているのかもしれない。
―全部どうでもいい、全部興味がない、全部私はもう考えないようにして生きる。
何も変わってはいない。でも、自分の心が死にたくなるほど嫌いだったのが、吐くほど、嫌いになった。死ぬほどでは、なくなった。