まどろみ3秒前

通りすぎたとき、何か口が動いていた。車のブオオンと鳴る音で何も聞こえない。


私は、咄嗟にスマホを取り出して、早速メッセージアプリから電話の通話ボタンを押してみた。すると、すぐに気づいて応答してくれた。

向こう側で、彼がスマホを耳に当てている。


「電話してごめんなさい。き、聞こえなかった。なんて?」

『わざわざ電話するってなに?すぐそこにいんのに』

「とりあえず、なんて言ってたんですか」


はぁ…と、電話でも伝わる面倒くさそうなため息を漏らして彼は言った。向こう側の朝くんと目が合う。彼は優しく、笑っていた。


『おやすみ』

「あ、それを言おうと…」

『なに期待してんの』

「いや、違くて、そんな期待とかしてないんで。ごめなさい、はは…」

『返事は?』

「あ、うん。…おやすみ。また、明日」

『明日は無理でしょ?』

「いや、あるかもしれないし」

『…ふうん?じゃあ、期待してる』


最後に、ふふっと笑いあった。


もし、明日起きれたら。

盛大に、嘲笑ってやろう。


久しぶりに、心が楽だった。重くなかった。


それもあの人のおかげだと思うと、どことなく、今夜は不思議な夜になった。








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