まどろみ3秒前

「…腫れてる」


東花の目線は、案の定私の膝だった。


「どしたの?」

「あ、いや…転けちゃってさ。はは…」

「ドジかよ」


私は笑みを浮かべたが、東花は笑わなかった。真剣な表情で、笑って誤魔化す私がバカみたいだった。


「あ、運良く絆創膏持ってるけど、貼る?」

「いや腫れてるだけだし、大丈夫」

「あ?貼っとけよ」


いやいや、と首を横に振る私を前に東花は大きくため息をつき、絆創膏を出して私に差し出す。私はじゃ、じゃあ、と笑って受け取って、無理矢理にでも腫れたところに貼りつけた。


「俺、これから塾なんだけど。翠は?」


東花は優しい。東花は、私が今日学校を休んでいたことは知っていたはずなのにな…

それに、私の着ている制服だって学校来ていない奴が着ているなんて、東花も良い思いをしないだろう。


「ちょっと私も塾ー」


塾のようなものだ。嘘は言ってない。


「どこの?」

「なんか個人でやってるとこの塾教室」

「へぇーあっそ」


どうでもよさそうに東花は、私から目をそらした。綺麗な空を見上げていた。東花の目には、細長い雲が映っていた。


「翠」

「ん?なに?」


笑みを浮かべて私は首を傾げる。東花は、顔を戻して私を見つめる。目を合わしきれなくて、目をそらしてしまった。
< 112 / 426 >

この作品をシェア

pagetop