まどろみ3秒前
「…腫れてる」
東花の目線は、案の定私の膝だった。
「どしたの?」
「あ、いや…転けちゃってさ。はは…」
「ドジかよ」
私は笑みを浮かべたが、東花は笑わなかった。真剣な表情で、笑って誤魔化す私がバカみたいだった。
「あ、運良く絆創膏持ってるけど、貼る?」
「いや腫れてるだけだし、大丈夫」
「あ?貼っとけよ」
いやいや、と首を横に振る私を前に東花は大きくため息をつき、絆創膏を出して私に差し出す。私はじゃ、じゃあ、と笑って受け取って、無理矢理にでも腫れたところに貼りつけた。
「俺、これから塾なんだけど。翠は?」
東花は優しい。東花は、私が今日学校を休んでいたことは知っていたはずなのにな…
それに、私の着ている制服だって学校来ていない奴が着ているなんて、東花も良い思いをしないだろう。
「ちょっと私も塾ー」
塾のようなものだ。嘘は言ってない。
「どこの?」
「なんか個人でやってるとこの塾教室」
「へぇーあっそ」
どうでもよさそうに東花は、私から目をそらした。綺麗な空を見上げていた。東花の目には、細長い雲が映っていた。
「翠」
「ん?なに?」
笑みを浮かべて私は首を傾げる。東花は、顔を戻して私を見つめる。目を合わしきれなくて、目をそらしてしまった。