まどろみ3秒前


「ほんとは、どこ行こうとしてたの」

「…ん?塾だけど」

「嘘つくなよ」


東花は、私の腕を強く掴んだ。咄嗟に笑みを浮かべて、なになに?と笑った。どうして私の嘘がバレたのか、と心の中は混乱状態だ。


「へらへら笑うな」

「…へ?」

「嘘ついて、死んだように生きんな。お前、死んでないんだから」

「……あー!ごめん、塾遅れそうになってたこと忘れてた!ばいばい、また学校でー」


そんなの、私が間違ってるって自覚して今この瞬間に笑みを浮かべて私は生きてる。

私は東花の横を通りすぎようとして行こうとしたが、腕を掴まれている。腕を掴まれるとか、これ前もあったような気がする。


「待て」

「…なに?ごめん、遅れるんだけど」

「道、迷ってんだろ」


笑って返答しようと言葉を作るが、何も言えなくなってしまった。その、言う通りだったから。


「なんかぶらぶら彷徨ってただろ」

「…」

「ほら、来た道、一緒に戻ろ?」


東花にしては優しい口調で、私の手首をそのまま引っ張って来た道を戻り始めた。東花の塾は大丈夫なんだろうか、なんて心配になる。

彷徨って、見たこともない風景が続いていたが、来た道を戻るのはまた違う。東花に手首を無言で引っ張られているこの時間は、とても不思議で、でもひとりよりは心強かった。

静寂なのが気まずいが、まあ、別にいいや。
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