まどろみ3秒前

迷った視線は下に落ちて、無言で引っ張られる。東花は絶対に離さないとでもいうように、掴まれる手は強かった。

東花の手はとても大きい。あの人と、似てる。

空は、暗い色に染まりつつあった。夜の色だ。ああ、夜が来てしまう。


「こっち?来た道」


東花の指した方向に「あ、違うこっち」と私はまた指で方向を指した。東花は、何も言わずそちらへと歩き進める。


「とう、か」

「あ?なに」

「…塾は、いいの?」


すると、癖なのかどこかがに股で歩いていた東花の足が止まった。


「塾は、ある。たぶん、親に怒られる」

「え?じゃーいいよ」


私はまた笑みを浮かべながら言った。すると、東花はこちらに振り返った。真っ黒な瞳に、吸い込まれそうになった。


「置いていけない」

「いやいや大丈夫だって。私のことなんか塾と比べたら別にどうでもいいから」

「どうでもよくないから言ってんだろ?それくらいわかんない?」

「…ごめん、でも…さ」

「いいから。塾のほうがどうでもいい」


静寂の中、2人の靴の音だけがする。東花ってこんなに優しい人だったのか、なんてどうでもいいが、ぼんやりと思った。

いつも「きも」とか「ブス」とか「寝てばっかりの奴が」と、学校では噂話のように陰口を言われているが、東花もてっきりその中に入っていると思っていたが、…違うのかな。
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