まどろみ3秒前
少し驚いたが身をひくこともなく、あれなんか近いな、なんてぼんやり思った。
まあ、彼は大体私の近くにいることが多いし、特に気にする必要はない。
「あれ?翠さん、髪巻いてんの」
「…あ、はい」
下ろした髪を、ちょっとくるんって巻いただけ。
不器用でうまくやれないと嘆いていたのだが、なんとか、うまくはやれたと思う。
「やばめっちゃ似合ってる。もしかして、俺のためにやってくれたの」
冗談ぽく笑う彼に、私は「い、いや」と地味に否定しといた。
髪とかそういうのって、男の人って見るんだ、気づいたら言ってくれるものなんだ、と男子との恋愛ゼロの私は思った。
別にこの人は、彼氏でも何でもなく、ただの変な関係の人なんだが。
は、恥ずかしい…
髪なんて巻いてるけど、方向音痴で迷子になったりして。情けない、ほんとに。
「ねぇ翠さん。迷子になったら、俺に助けを求めてくんない?」
確かに、もっと早く私が連絡をして向かいにでも来てもらえばよかったかもしれない。
迷惑をかけてしまった。「ごめん」と謝る。
「俺以外の男の人に助けてもらうのは、まあ全然いいんだけど…、あんまり、いい気しないから」
「…ん?」
「まあ、別にいいか。…それじゃあ遅くなっちゃったけど、始めよっか」
「あ、お願いします」
そうだった、勉強するためにここへ来たんだった。教科書やノートを広げて、私はシャーペンを握りしめる。
スイッチを入れ換えるように眼鏡をかけた朝くんを、見つめていた。