まどろみ3秒前

体が勝手に動いたようだった。

私は赤い傘を投げ捨てて、橋に足を掛けて、橋の上をよじ登った。今にも落ちそうになる。

身体中も制服も、全部が雨に濡れて、全てが浄化されていくみたい。それが、気持ちよかった。私は、今の自分、全部が憎いから。

背後には何もない。このまま力を抜くと、私は落ちるだろう。そう思いながらもう一度下を覗くけれど、何も恐怖も感じなかった。

川に落ちる雨の雫が、波紋のように水面に映っているのが、ただただ、綺麗で。


―やっぱり、私の心は、もう死んでるみたい。


「私ね、3日も寝たの」


誰かに話しかけるように、空を仰いだ。


「この橋からなら絶対に」


空から落ちてくる雨が、スローモーションになった。私は、静かに息を吸う。


「死ねる」


雨の中、私はそっと身体中の力を抜いた。静かに、全てを終わるように、視界を閉じた。



『おちょこ橋』という橋をスマホで調べると、私の心がどこか惹き付けられるような感覚があった。そこで、雨の中死のうと思った。

理由なんて、ない。瞬間的に、「あーここで死にたい」なんて軽い気持ちで思ったから、今から私は、死ぬ。
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