まどろみ3秒前

別れる交差点の帰り際に、ポツリと彼は言った。


「翠さん、また明日ね」


眠っていても起きていても、同じみたいに生きている感覚がしない。ずっと、溺れてて。

息を吸って吐いているはずなのに、それすらも忘れていた。

私は、生きていることを体に刻み込むために、息を精一杯に吸った。

すると、吸い込んだ空気が別の気管に入ってしまい、苦しくて「げほっうげほ」と咳が出る。


「ちょ、なにしてんの」

「…生きるってことを、体にわからせようと思ってめっちゃ息を吸いました、はい」

「ふうん?死んでるみたいな目してるのに、生きようとしてる翠さんも、好きだわ」


彼はまた、優しく笑った。


「…今日、クラスメイトに、言われちゃって。死んだように生きんなとか。でも私、もう死んだようにしか生きれないんでどうしようもないんですよね」


はは、と笑みを浮かべて笑った。


「何回言ったらわかんの?」

「…えっ?」

「俺は、死んだように生きてる翠さんが好きなんだよ。そのままでいいから。無理に、生きようとなんかしなくていいんだから」


じーんと心に染みてしまった。


昨日、朝くんに言われた通り、私の心や感情は、本当は死んでなんてなかったのだ。

嬉しい、悲しい、苦しい、辛い。色んな感情は、ちゃんと生きて、感じてくれていた。


本当は、心までもが死にたくなくて。

死にたくなくて、ずっと息を求めてただけ。


ずっと、感情から逃げるために足掻いてただけだった。

私は、東花に言われたように生きない。

これからも生きようとしないで、全部から逃げ続ける。私は死んだように生きる。まあ、それしか出来ないから。


それで、いつか、逃げずに生きることを誓う日が来たら、いいよね…












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