まどろみ3秒前

「ほんとは疲れない?あんなずっと笑ってる八方美人みたいな奴。みーんなに嫌われてるくせに、私好かれてるアピールみたいな?」

「キモいでしょ?」

「ねぇ、ほんとに翠ちゃんのこと好き?」


息ができなくなっていた。酸素を求めて魚のように口をパクパク動かせることしかできない。

トイレの前で止まっているただの変人だが、他の人の目なんてどうだってよかった。


「なーんか、色んな噂もきくじゃん?何人の男子と付き合ってんだか。やばくない?」


違う、私はそんなのやってないよ…

なんなんだろう。この柚を取り囲む女子は何をしたいんだろう。全く、意味がわからない。私のことが、ただ、嫌いなのか…?

柚は、黙っていた。彼女は、このことを私には言わないだろう。柚は優しい人だから。


「…ほんとはあんなの無理」


柚の声とは思えないほどに、低くて無愛想な声だった。今まで、聞いたことない口調。


「幼なじみだし、ひとりなの可哀想じゃん。仲良くしないといけないし」


聞きたくなかった。耳を塞ごうとした。私に向けられた言葉だと受け止めたくなかった。
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