まどろみ3秒前

当然のように小鳥が話題を振ってくれた。でも、あまり得意としている話題ではない。


「翠ってさ。恋愛全然しなさそうだけど、好きな人とかできたことあんの?」

「…えーはは。なにそれー」


ああ、どうして恋愛話?無理無理、なんて思いながら、笑う。私は会話のキャッチボールをするために、小鳥に聞き返した。


「小鳥は?好きな人とか」

「えー!?内緒」


青春かとツッコミをいれたくなる。私には、程遠い世界すぎた。高校生にもなれば意識するものなのだろうが、私はまず、女でも男でも人間という動物に心を開けないのだから…


「他のクラスなんだけどね。いや、別に好きじゃなくてね?ただあーこの人いいなってだけ。それでさぁ、前にもそういうのあって―」


小鳥は全く気付いていないようだったが、私は薄く目を開きながら話を聞いていた。

多分、小鳥はこの話がしたくて私に話題を振ってくれたんだろうな。


「イケメンに頭ポンポンされたり抱き締められたり…おいなにその目。これ想像してる私気持ち悪いか?」

「いや全然そういうわけじゃ、…」

「翠もいつかでいいからやられたくない?好きな人にハグされるとかやばくない?」


心当たりがありすぎて、何も言えなかった。

雨の中抱き締められた、頭ポンポンされた、めっちゃ顔近づかれた…あの人の顔が頭に鮮明に思い浮かぶ。

…全然、そんな自覚なかった。いや、あの人も自覚なんてなかったのかもしれない。


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