まどろみ3秒前


「ばいばーい」

「またねぇー」


手を振り合って、いつもの交差点で別れた。背を向けたと同時に、自然とため息が出る。

胸に手を当てる。ドクドク、と当たり前のように心臓が鳴っている。刺されてもいないはずなのに、胸が痛くてたまらなかった。

どうしてだろう。小鳥と話すと、胸が痛くて苦しくて、たまらなくなっていた。









『で、今日の勉強をやめると』


スマホから聞こえる声に、今何しながら喋ってるのかななんて考えた。「病院なんで」と地味に念押ししといた。

病院なのだから、流石に何も言わないだろう。普通の人はそうする。内心、今日は勉強から逃れられると思って喜ぶ自分もいた。


『じゃあ、病院終わったらまた。お大事に』

「…え?いや今日は流石に勘弁し―」


電話は切れていた。最悪だ。お大事にとは言ってくれたのに、絶対、使い方間違えてる。


「はぁ…最低すぎあのゴミクズ野郎が…!」


ぶつぶつぶつと…と部屋の扉に向かってボロクソに言ってやったところで、コンコンッと扉をノックする音が聞こえた。


「翠?なんか言ってた今」

「あ、ううんー!はは…」


まずい、天罰が下ってしまったようだ。お母さんに聞こえるところだった。


「病院行こうか」

「はーい」


私は呑気な返事をして、部屋を出たのだった。


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