まどろみ3秒前

「えー?私、治ったんですよー?」


冗談めかして笑ったが、医者は笑わず、しっかりと私に向き合っていた。それが、どんなに重いことなのか、考えたくもなかった。


「天塔さんの病気を調べてました。色んな医者や研究所の方たちにも報告してて」


医者は、カルテのような紙を取り出して眺めながら言う。左の薬指の指輪が、きらりと輝きを放っていた。


「その病院には、あなたと同じような症状にあわれている方通っていました。その方が、治った報告があるのです」

「…え」

「詳しいことはわかりませんが、とても、奇妙な病気です。…もしかしたら、その医者は治せるかもしれない」


「私は治せなかったけど」とボソリと悲しそうに呟いた医者は、眼差しを私に向ける。


「治せます。あなたの病気は」


医者は、悲劇のヒロイン気取りでもなかった。私のことを、精一杯に考えていてくれたのだと、その瞬間に理解できた。

ああ、どうしてわからなかった?

どうして、この人はこんなに私のことを真剣に考えてくれていて、心配してくれてたのに。


何か言おうと口を開こうとすると、お母さんが先に涙声になって「ほんとですか…」と後ろで言っていた。
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