まどろみ3秒前

「…いや名前、違うんですけど」


私が言うと、彼はしばらくポカンと口を開けて、「へ?まじ?」と情けなく言った。

私と男の人に、雨が降り注ぐ。

別にツッコミを入れるわけではなかったが、思わず口走ってしまった。

気付けば下がっていた口角を上げて、私は彼に言った。


「私は、天塔 翠《あまとう すい》です。名字の区切るとこ違い、ます。とうすいって」


彼はしばらく下を向いて、「あれま」と呟いた。呟いたあれまは、暗い雲に吸い込まれていくように、悠々と空へ消えていった。


「めっちゃカッコつけちゃった。まあまあ、そんな名字切れたくらいで」


天塔翠は区切れやすいだろ、初めて間違われたわ、なんて言いたくて「そりゃあ」と私が口を開こうとすると、「どうでもいいんですけど」と口走られた。
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