まどろみ3秒前

「翠さん」


彼は一歩私に近づき、強く腕を掴んだ。

痛い、え?めちゃくちゃ痛いんだけど…


「痛っ…ちょっやめ…」

「ねぇ、こんなとこでなにしてんの」


優しい笑顔は消え、無表情で私を強く睨み付けてきた。茶色い瞳に私が映る。


「っ…」

「昨日、なんで俺の家来なかった?俺、待ってたんだけど。連絡は?朝には電話だってしたんだけど。無視したってこと?」


昨日病院から帰ったあと、連絡するのすら忘れていた。朝には、完全に無視をした。

嘘をつこう。嘘をなにか…


「…っえっと…」


嘘が、思い付かない。嘘は得意だけど、思い付かないと何も起こせらない。

何も言えずに黙っていた私を見て、舌打ちをした彼は、私の腕を軽く引っ張った。


「早く降りろ」

「…死のうと、してた」


笑みを浮かべて、私は空を見上げた。


「…この橋から飛び降りようとした。でも、私、やっぱ弱いから。死ねなかった。はは。まーじで情けないんですよねぇー」


無理矢理にでも口角を上げた。
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