まどろみ3秒前

空を見上げてて、全く気付かなかった。

彼が、私の隣によじ登ってきていたことに。


「っなにしてるの?危ないって…」


降りるよう腕を軽く引っ張ったが、動こうとはしなかった。この光景、見たことある…


「一緒に落ちよっか、翠さん」

「…えっ?」

「死にたいんなら俺も一緒に死ぬし、翠さんが生きたいなら俺も生きるけど、まあ」


どこか空虚な目で彼は、私に優しく笑いかける。怖いくらいに、死ぬのは怖くなさそうだった。


「ねぇ、翠さん」


朝くんは、空を見上げた。

茶色い瞳には、綺麗な空が映っていた。



「空が、綺麗なんでしょ」



空を見上げた。優しい青さが、私の目に映っていた。微かに春の匂いもする。明日は、雨なんだろうか、飛行機雲ができていた。


「翠さんは、ほんとは、この世界が大好き」


目元が熱い。私は涙を流していた。


「そう…空が綺麗だから…この世界が、好きだから…死ねなくて……」


そうだった。私は、この世界が好きだから、一瞬一瞬を捨てず生きたいと思ってたんだ。


「なんで私のことわかるの…?どうして…」

「いや、翠さんわかりやすいから」


またぐはっと涙が溢れてくる。


「あーあ、また泣いて。俺の前で泣きすぎ」


私を犬みたいに扱ってきて、頭を撫でられる。大嫌いだ、朝くんも。本当に、嫌いだ…
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