まどろみ3秒前
その時、若い男女の通行人が通ってこちらを見ていた。「危なくない?あそこ」なんてブツブツ言っている。
カップルでも思われたんだろうか。虫でも見るかのような目でこちらを見てきていた。
「…ごめん、降りよう」
「ん、わかったわかった」
通行人が通っても、彼は私に頭を撫でることをやめなかった。まるで、私以外、周りを見れてないみたいに、瞳には私だけが映っていた。
よじ登った橋からジャンプして降り立った。彼も同じように降りる。
「きれい、やっぱり、大好き」
ポツリと呟いて空を見上げる。
もうすぐ沈む太陽に、私は手をかざした。
「ありがと、朝くん」
「…翠さんも綺麗だけど」
「え?いやなんでよ」
思わず真顔でつっこんでしまった。もう笑みを作る気力もなかったから。
朝くんは私を見て、優しく笑っていた。
「朝、くん」
「なに」
空がオレンジの夕陽に染まってきた。もうすぐ、怖くて大嫌いな夜が来てしまう。
「無理なお願いごと、してもいい?」
私はしっかりと、彼の目を見て合わせた。綺麗な、茶色い瞳。人と目を合わせるのは怖いけれど、彼の目は、本当に優しい目だった。