まどろみ3秒前

風が吹く。温かくて、優しい風だった。私の髪やスカートが揺れる。彼の髪も揺れる。


「まああの、絶対無理だと思うし。別に、こんなお願いごとやらなくていいから…、」


何度も「ほんとに」と付け加えた。


「なに、早く言って?翠さんのためなら、別に俺は何でもする」


そんなことを彼は言うけど、私が言ったら彼はどんな反応をするのだろう。

いや考えないでいい、とあまり想像しないようにして、私は彼に言い放った。



「私と一緒に、寝てください」









どれだけ、私が気持ち悪いお願いをしてるかなんてわかってる。事情を説明しても理解できないかもしれない。

ただ、僅かな希望を、試したいだけだった。

世界に80億人以上も人が存在する。その中のたった1人。そのたった1人の、運命の人が私の近くにいるわけなんてないのはわかってる。だから、希望だった。



後悔した。

なんてことを言ったんだろう、私は。


勢いで言ってしまったらしい。私を起こせる人なんているわけないんだ。早く見つけなければ私は一生眠り続けるかもしれない。そんな、焦りがあったのかもしれない。


その巡り合えたという患者は、運が良かっただけ。私は、運の悪い人間なんだから…


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