まどろみ3秒前

「…っそんなこと、俺が許さない」


ガシッと、俺は朝の腕を掴む。


「あれ、あの傷は?」


朝の目線は、俺の手の甲に行く。見られないように、瞬間的にすぐに朝の腕から手を離して、咄嗟に手を後ろに隠した。


「あー俺が付けた傷、だったよね?もう覚えてないんだけど」


何も言えなくなった。まるで口にボンドを塗り回されたみたいに、閉じて固まった。


「夕。俺のこと嫌いなんでしょ」

「…っは」

「教えてよ。これが最後のお願い。…クズすぎる俺のこととか、もう忘れていいから」

「…一旦考え直して」

「無理、教えて?ほんと、最後のお願い」


最後のお願い…か。こんな馬鹿らしい最後のお願いなんて聞くわけが…


「ここ」


教室の端にある、夕陽に照らされた窓辺の机。俺は、ゆっくりと指を差した。朝はそれを見てにっこりと夕陽に照らされて笑った。


「教えてくれんのかよ。ありがと、夕」



途中からだけど、いつも必ず学校には来る彼女は、今日は珍しく、学校を休んでいた。

明日、この手紙を見れば、もうこの席に戻ってこないかもしれない。そんなことを、馬鹿らしく思いながら机を見つめていた。


翠が死ぬなら、朝も…

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